(C)2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED
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韓国ソウルと隣り合わせの江原道横城郡(カンウォンドウフェンソン)にある小さな村古時里(コシリ)に暮らす98歳の夫と89歳の老夫婦のドクメンタリーが、2014年クリスマスから新年にかけて韓国で大ヒットした。KBSテレビドキュメンタリー「人間劇場 白髪の恋人たち」の映像を見て、二人の暮らしを撮り続けた15か月間。チン・モヨン監督を引き付けたものは、二人を結ぶ真実の愛と必ず訪れる別れ。「人の望むものは、人の変わらぬ愛である。貧しい人は、まやかしを言う者にまさる。」(箴言19章22節)という聖書の言葉が想起される生きざまは、互いを大事に思うことの豊かさに気づかさられる。

【あらすじ】
自宅庭の枯葉を掃き集めるチョ・ビョンマンおじいさん(98歳)とカン・ゲヨルおばあさん(89歳)夫妻は結婚76年目を迎えた。おじいさんはピンク色のズボンに薄い若草色のチョッキ。おばあさんもおしゃれな韓服(ハンボッ=民族衣装)を着て作業している。すると、集めた枯葉をおじいさんはおばあさんに頭上に振りかけた。笑いながら枯葉投げ合戦に発展する。二人はよく韓服のペアルックを着て手をつないぎながら川べりを散歩したり老人会の遠足などに出掛ける。仲良し夫婦で近所でも有名だ。

二人が出会って結婚したのは、おばあさんが14歳の時。まだ少女の恥ずかしがり屋さんで、お嫁さんの実感がない。おじいさんは、結婚したからといって無理強いせずに、少女の顔や耳などをさすりながら添い寝していた。二人が本当の夫婦になったのは、おばあさんが17歳の時だ。おじいさんは、今でもおばあさんの顔を優しく撫でないと寝付けない。

春、山菜を採ってナムルを作る。花を摘みお互いの髪に飾る。
夏、ポーチで昼下がりにお昼寝をする。涼風が吹く縁側に腰かけて談笑する。
秋、庭の落ち葉を掃除する。葉っぱを投げてふざけ合う。
冬、真っ白になった庭で雪合戦をする。凍りついた手に息を吹きかけて温め合う。
いつも笑い声が絶えない恋人のような夫婦。だが、辛いこともたくさんあった。おばあさんは、子どもを12人産んだが、6人は幼いうちになくしている。残った6人(男女3人)の子どもたちは、成長しそれぞれに独立して町で暮らしている。正月や誕生日などには、子どもたちの家族が集まって二人を祝福する。だが、おばあちゃんの誕生会の日に二人の先行きを心配する長男と長女が、言い争いへと発展した。おばあちゃんは、静止しょうとするが大声の彼らには届かず、ついには泣いてうまう。

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おじいちゃんの咳がひどくなってきた。夜なかにも目が覚めてしまう様子。おばあちゃんは別れの時が近づいているのを感じる。天国でおじいちゃんが着るものに困らないようにと、かまどの薪に着るものをくべて燃やす。それでも、おばあちゃんには、おじいちゃんが夏物と冬物の違いが分からないことが気にかかる。「天国でも教えてあげなきゃ。すぐに私が逝かなかったら、迎えに来てね」とつぶやきながら。

おじいちゃんが少し元気を取り戻した。飼い犬のゴンスンが子犬をたくさん産んだ。それ見ながら喜ぶおじいちゃんの笑顔。おばあちゃんも久し振りに笑顔になれた。数日後、おじいちゃんは病院に担ぎ込まれた…。

【みどころ・エピソード】
おじいちゃんが、とにかく可愛らしくて優しい。韓国の男性のイメージとはかなりかけ離れている。妻との歳の差9歳。21歳で結婚したとき、妻は14歳。おじいちゃんはずっと少女の心が、妻の決心に変る日が来るまでおぼおばあちゃんを見つめ続ける。おばあちゃんが作る料理に小言や嫌味は一切言わない。おいしければ全部食べ、口に合わないときは食べ残す。そして、食べた後には必ずおばあさんにお礼を言う。掃き集めた枯葉をおばあちゃんの頭にかけたり、川で野菜を洗っているおばあさんの近くに小石を投げ入れて水しぶきでおばあちゃんを濡らしたり…、悪戯の始まりはいつもおじいさんからなのも微笑ましい。

そんな、恋人夫婦な二人の年齢を思うと着ている民族服とは異なる現代的で、国の文化や年代層を超えてナイーヴでピュアな心が伝わってくる。貧しい暮らしの時に亡くした6人の子どもたちを思い、買って着せてあげられなかった寝間着を二人で買いに行く哀しさ。それは、おじいさんを見送るおばあさんの心情へと繋がっていく。故人を偲びながら来ていて服を焼くことは、今も韓国の地方では生き続けている習慣という。本作に、二人の飼い犬を妊娠させた犬が、どうも牧師が買っている犬らしいというエピソードくらいしかキリスト教的な描写はないのだが、ただラストのシークエンスで、おじいさんの遺影の隣りに置かれた位牌には、「聖徒チョ・ビョンマン」の上に金色の十字架が付いている。「聖徒」の文字はキリスト教以外でも記されるが、お二人が感じさせてくれる普遍的な愛の在り方に、アジア・韓国・民族服から解き放たれた自由を強く感じる。「人の望むものは、人の変わらぬ愛である。貧しい人は、まやかしを言う者にまさる。」(箴言19章22節)という旧約聖書の一言が胸に迫ってくる。 【遠山清一】

監督・撮影:チン・モヨン 2014年/韓国/86分/ドキュメンタリー/英題:My Love, Don’t Cross That River 配給:アンプラグド 2016年7月30日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://anata-river.com
Facebook https://www.facebook.com/anatariver/

*Awards*
モスクワ国際映画祭観客賞受賞。ロサンゼルス映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞受賞。ビジョン・ドゥ・リール国際映画祭観客賞受賞。DMZ国際ドキュメンタリー映画祭観客賞。アジアティカ・フィルム・メディアーレ観客賞受賞。TRTドキュメンタリーコンテスト特別賞受賞。ホットドックス・カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭観客賞受賞作品。