事故から2年後。ケイトは加害者にあたるトマスと自宅で会い互いに事故のことと向き合った。 (C)2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GOTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.
事故から2年後。ケイトは加害者にあたるトマスと自宅で会い互いに事故のことと向き合った。 (C)2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GOTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

不可抗力であったとしても自ら運転する車で幼い子どもを死なせてしまったら、自責の念は心の深い傷になって残ることだろう。作家である男が事故を起こし、葛藤を覚えながらもその経験を創作動に利用し、出世への契機になったとしたら…。ヴェンダース監督は、そのような実生活での出来事を自己の社会的活動に利用する場合の“罪悪感”や当事者や家族・親しい者たちなど関係者に起こりうる“責任”について問いかけている。補償や法的な訴訟などではない、心の問題として見つめている心象風景を3D映像で描こうというチャレンジ意欲にも敬服する作品。

【あらすじ】
真っ白な雪に覆われたモントリオール郊外の田舎道。雪が降ってきた。夕闇のなかを注意しながら車を運転して家路に向かう作家のトマス(ジェームズ・フランコ)。ある一軒家の近くで何かが車の前を横切った。急ブレーキを踏むトマス。恐る恐る車の前に行くと、子ども用雪ソリの傍で5歳ぐらいの男の子が放心状態で座り込んでいる。雪道に放り出されたようで外傷もなさそう。その子を肩車して、家の玄関まで行くと、母親のケイト(シャロット・ゲンズブール)が「弟は?」と言い放ち、車の方へ走っていく。弟は、車の下に…。

読書に耽っていたケイトは、夕暮れにきずかず子どもたちを家に入れなかったことを悔やんで自らを責める。トマスは、警察にも不可抗力的な事故として情状酌量された。帰宅して恋人のサラ(レイチェル・マクアダムス)には、事情を説明し「すべて良くなると思う(Every thing will be fine)」と告げるツマス。だが、彼の心には事故のことが大きな傷となり、サラとの関係も壊れてしまう。作家として創作活動を続けたいトマスは、自らの事故の経験をもとにした小説を書くよう、編集者から勧められていた。だが、被害者の家族の悲しみを含めて自分に書く権利があるのだろうかと葛藤するトマス。しかし、ようやくの思いで書き上げた小説は、作家としてのトマスに新境地を開くことになった。

2年後、作家として成功したトマスは、初めて事故現場のケイトの家を訪ねた。子どもを失った悲しみを抱きながらも「あなたのために祈っていた」と語り聖書を贈るケイト。トマスは、自分にできることは何でもすると約束してケイトと別れた。

4年後、トマスは編集者のアンと彼女の娘ミナとの新しい生活を始めようとしていた。ある日、3人で遊園地に遊びに行ったとき、観覧車が倒れる事故を起こりミナのことを案じて駆けつけるトマスとアン。ミナは無事だったが、事故に遭った女性を冷静な行動で助け出したトマス。だが、突然の出来事にも遭っても感情を表に出さず対処するトマスをみて、アンは動揺し、なにか不安のものを感じさせられる。

(C)2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GOTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.
サラは事故のこと、作家としての創作ことなどトマスのことを親身に案ずるが、どなぜか心の隙間が埋まらない二人 (C)2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GOTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

…事故から11年後、16歳になったケイトの息子クリストファーからトマスに手紙が届いた。彼自身、作家になりたい夢を抱いていて、トマスにも憧れている。だが、トマスはクリストファーと会うことを拒んだ。トマスからクリストファーにあてたその返信を読んだケイトは、トマスを責めた。心の罪責感が疼き、ケイトに自ら約束したこともあってクリストファーと会う決心をしたトマス…。

【みどころ・エピソード】
幼い子どもの命が失われた交通事故。その車を運転していた罪責感は、親身に心配する恋人との関係が壊れていくほど重かった。そして自らの日常に起きた事故、被害者家族のの深い悲しみを知りつつも、作家として自らの創作活動に利用した後ろめたさ。ヴェンダース監督は、心に重くのしかかる“罪責感”を演じる主人公に、自らも作家であり大学で授業を講じる俳優ジェームスズ・フランコをキャスティングし、その存在感を存分に引き出している。また、登場するシーンが少ない中で、片田舎の一軒家で息子と慎ましく暮らし、加害者の立場の男のために祈る女性をシャルロット・ゲンズブールが静謐な存在感を醸し出して演じている。“罪責感”という重いテーマを心理サスペンスとして描きながらも、原題(Every Thing Will Be Fine)が指し示す希望への薄らとした光の温もりを感じさせられるのは、ケイトの祈りの日々ゆえだろうか。
ヴェンダース監督は、主人公と3人の女性たち、そしてクリストファーらの心象風景をあえて3Dカメラで映像化することにチャレンジしている。登場人物同士の間隔、自然との距離の間に流れ込む心の揺らぎが、どのように映像化され味わえるのか。劇場で味見してみたい。 【遠山清一】

監督:ヴィム・ヴェンダース 2015年/ドイツ=カナダ=フランス=スウェーデン=ノルウェー/英語/118分/3D版・2D版/原題:Every Thing Will Be Fine 配給:タランスフォーマー 2016年11月12日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森、T・ジョイ蘇我ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.transformer.co.jp/m/darenai/
Facebook https://www.facebook.com/darenai.movie/

*AWARD*
2015年:第65回ベルリン国際映画祭金熊名誉賞(ヴィム・ヴェンダース監督)受賞。