(C)VETOV SIA,VETOV REAL CINEMA OOO,HYRERMARKET FILM S.R.O.CESKA TELEVIZE,SAXONIA ENTERTAMENT GMBH,MITTELDEUTSCHER L RUNDFUNK 2015
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RUNDFUNK 2015

北朝鮮の慶弔式典のニュースに映し出される市民の歓声や表情に、どこか胡散臭いものを感じさせられてきたが、それは何かの出来事に限らず、すべての生活領域に当局の指令と統制が行き渡っていることをこのドキュメンタリーは白日の下にさらけ出している。自分が映像作家として撮るのではなく、許可した当局の監視員が支持し作品を乗っ取る、その一部始終を詳らかに録画している。メインキャストに選ばれた8歳の少女の愛くるしい笑顔がほほえましく、少女の家族の立ち居振る舞いや会話を指導する当局の様子が喜劇のように思えていた。それがしだいに、支持と統制に生きる人間飼育のプロセスを見せられている現実に、やがて笑えない悲哀な思いに包まれる。

生活臭が感じられない自宅
当局の演出が市民のリアルを暴く

モスクワ・ドキュメンタリー映画祭「ARTDOKFEST」の会長を務めるヴィタリー・マンスキー監督は、およそ2年間の交渉を経て北朝鮮とロシアの支援の下で1年に及ぶドキュメンタリー取材が許可された。平壌に住む8歳の少女ジンミと両親の家に1年間ともに生活し、ジンミの友達や両親の職場など平壌市民の日常生活のドキュメンタリーで、マンスキー監督がオーディションでジンミの家族を選び、監督の台本は北朝鮮の検閲を経て撮影が始まる。あいさつに続いて「朝日が一番早く昇る地球の東側にある美しい国」と北朝鮮を紹介するジンミ。模範家庭のジンミの家で撮影が進むうちに生活臭が感じられないスタジオのようなマンション、家族を遠巻きに見ている当局の監視員たち。ジンミと両親は、マンスキー監督ではなく当局の演出家らしい人物らの指示だけを気にかけている。当局の演出家らの過度な介入を目撃したマンスキー監督は、リハーサル段階からカメラのスイッチをオンにし、本番終了後もそのままスイッチを切らずに、当局の演出家からの行動と平壌市民たちのリアクションをリアルに記録していく。

ジンミは、北朝鮮で最も権威のある青少年団体の朝鮮少年団に入団した。金日成の誕生日を祝う「太陽節」(4月15日)に向けてほぼ1年をかけて準備が始まる。朝鮮少年団の団員は、学校に授業でも積極的に質問に答えて優等生ぶりを発揮する。ジンミが朝鮮少年団に入団したことで、ジンミの両親も職場の全職員からお祝いを受ける。ところが、オーデションの時ジンミの父親は記者で、母親は工場の食堂職員だったが、撮影に入ると父親は縫製工場のエンジニア、母親は乳製品工場の職員に設定変更されていた。あちらこちらに掲げられているスローガン、撮影前に職員たちに演出を指示する当局。指示を待つ“庶民”の生活が詳らかに浮き彫りにされていく。

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栄誉と規律で訓練されていく
国家的マインドコントロール

小学2年生のジンミは、少年団の最初の入団式に臨んだ。エリート校の優等生(1クラスから5人程度)から順次選抜されるので非常に栄誉なことで家族にとっても誇りだ。最終的には小学2年から初等中学3年までの子どもたち全員が入団させられるだけに、一般の小学生とは意識も姿勢もまったく違う。北朝鮮最大の祝日とされる太陽節(金日成の誕生日)での祝賀公演の準備が始まると、学校で友達とおしゃべりを楽しむどころではなくなる。ジンミのその日々を追いながら、両親や一般市民の住居、職業、行事などの日常生活が挿入されていく。マンスキー監督が、隠し撮りし検閲を潜り抜けて命がけで持ち出したフィルムによる構成と展開は、朝鮮労働党が一党支配する全体主義社会システムに人間を組み込んでいく国家的マインドコントロールの現実を目の当たりにさせられ、なんとも心が凍てつくようなドキュメンタリーだ。それだけに、観て知っておくべき作品といえる。 【遠山清一】

監督・脚本:ヴィタリー・マンスキー 2015年/チェコ=ロシア=ドイツ=ラトビア=北朝鮮/ハングル/110分/ハングル/映倫:G/原題:V paprscich slunce 配給:ハーク 2017年1月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開。
公式サイト http://taiyouno-shitade.com
Facebook https://www.facebook.com/pages/太陽の下で-真実の北朝鮮-/1074275035964957

*AWARD*
第40回香港映画祭審査員賞受賞。第18回DoAviv映画祭国際コンペティション部門最優秀監督賞受賞。第9回イフラバ国際ドキュメンタリー映画祭中央ヨーロッパ最優秀ドキュメンタリー賞受賞。第59回サンフランシスコ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート作品。