(C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual
自分の死が近いことを家族に告げるためにきたのだが、ルイは母親に打ち明けることにも躊躇する… (C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual

自分の余命を覚悟した30代の若い男が、そのことを疎遠になっていた家族に告げるため久しぶりに帰郷する。その一日に満たない若い男と家族の心のすれ違いを心理サスペンス効かせて痛々しく描いていく。心の安らぎを求めて帰港した我が家。だが、そこは安らぎに浸れる港ではなく、むしろ心の傷跡をえぐられるような痛々しさ。冒頭に挿入されているカミーユの“Home is where it hurts”が、その悲哀の物語へと誘う。

【あらすじ】
パリで作家として成功したルイ(ギャスパー・ウリエル)は、自分の死が近いことを家族に告げるため12年ぶりに故郷の空港に降り立った。ずっと疎遠だった家族が住む家に向かうタクシーのなか、流れる街の風景を見つめるルイ。カミーユが歌う“Home is where it hurts”の歌詞“Home is not a harbour Home home home Is where it hurts”が、ルイの重たい心情とこれから起こる出来事を予感させる。

実家では、家族みんながそわそわしながらルイの到着を待っている。ルイの好きな料理をれしそうに作る母親のマルティーヌ(ナタリー・バイ)。母を手伝う妹のシュザンヌ(レア・セドゥ―)は、幼かったためあまり兄の記憶はないが、名前の売れた作家になって帰ってくることが誇らしくもあり憧れる。玄関先にタクシーが着きドアが開くとシュザンヌが真っ先にルイに抱き着いて喜んだ。兄嫁のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)は、ルイとは初対面。ルイが「初めまして」と型通りのあいさつをするが、カトリーヌはルイの瞳の奥に何か複雑な重たいものを感じ取る。

兄のアントワーヌ(バンサン・カッセル)だけは、ルイが到着する前からどこかいらだっていた。食事が始まっても、そのいらだちは治まらない様子で、家族の会話の言葉尻をとらえては威圧的な感情をさらけ出してひと悶着悶着起こす。ルイはほとんど言葉を返さないが、シュザンヌはもろに感情むき出しに和やかなムードを壊すアントワーヌに反論する。みんなルイがなぜ突然帰ってきたのか、その理由が気にかかっていた。ルイも話さなければとタイミングに戸惑う。

あまり話し上手ではないカトリーヌが、自分の子どもの名前をルイと名付けたことを話題にする。だが、つい言葉が滑り、ルイがゲイであることに触れたため気まずい空気がいっそう濃くなる。それを機にシュザンヌはルイを自分の部屋へ連れていく。作家として脚光を浴びていく兄に憧れ、新聞記事をなども切り抜いていたことを話すうち、自分には旅先からたった2回しか絵葉書が来なかったことなどを愚痴るシュザンヌ。そして、「なぜ帰ってきたの?」とルイに尋ねたが…。

(C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual
(C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual

【みどころ・エピソード】
19歳の時に自らが監督・脚本・製作・主演をこなした「マイ・マザー」(2009年)をカンヌ国際映画祭監督週間部門に出展し3冠獲得という華々しいデビューを飾ったグザヴィエ・ドラン監督。6作目は、劇作家ジャン=リュック・ラガルスの戯曲をもとに脚本・監督し“家族”をテーマにしたサスペンス。ルイはほとんどセリフをしゃべらずに、言い争う家族との会話を聞き、戸惑い、思い遣る心情を受け止める表情をアップでとらえたシーンで複雑な心境といら立ちを映し出していく。愛情を素直に表現できなくなった家族のもどかしさ、思いをさらけ出した時にどうなるのか予測できない不安と驚きが、演技力に長けたキャストとドラン監督が作り出す映像美のうちに引き込まれていく。

ルイ自身の言葉としては少ないが、彼の心情はときおり挿入歌などの音楽で観想させる演出も心にくい。冒頭の“Home is where it hurts”や、ルイがかつて恋人と過ごした部屋で回想するシーンで流れるEXOTICAの“Une Miss s’immisce”、エンドロールでの“Natunal Blues”(Moby)など印象深いメロディと歌詞がドランの思いを伝えている。 【遠山清一】

監督:グザヴィエ・ドラン 2016年/カナダ=フランス/フランス語/99分/映倫:PG12/原題:Juste la fin du monde、英題:It’s Only the End of the World 配給:ギャガ 2017年2月11日(土)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/
Facebook https://www.facebook.com/dolansekainoowari/

*AWARD*
2016年:第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。 2017年:第89回アカデミー賞外国映画賞カナダ代表作品。