機動隊員らは命令で行動しているだけと知りながらも、沖縄の人たちは隊員ら一人ひとりの目を訴えかけるようにのぞき込む (C)「標的の島 風かたか」製作委員会
機動隊員らは命令で行動しているだけと知りながらも、沖縄の人たちは隊員ら一人ひとりの目を訴えかけるようにのぞき込む (C)「標的の島 風かたか」製作委員会

沖縄県東村高江のヘリパッド基地建設に抗議する住民の生活と意見を追った映画「標的の村」(2013年)、普天間基地“移設”の欺瞞性を衝いた「戦場ぬ止み」(2015年)に続くジャーナリストで映画監督・三上智恵さんの長編ドキュメンタリー映画第3作目。宮古、石垣など先島諸島へも自衛隊の防衛基地建設が進められているなかで、島民の生活とともに息づいてきた民衆文化を受け継ぐ子どもたちの未来を守ろうとする小さな力と声が広がりつつある。

“風(かじ)かたか”とは
襲い来るものからの防波堤

オープニングは、2016年6月19日に那覇市で開催された県民大会の様子から始まる。ジョギングしていた20歳の女性が元海兵隊の男に暴行を受け、殺され、棄てられた悲惨な事件の被害者を追悼する6万5千人の県民が集った。戦闘のテンションをシャットダウンできない兵士たちが集まる米軍基地の島・沖縄では、県民の“風かたか”をあざ笑うかのように悲惨な事件が起きては、地位協定を盾に米軍・日本政府からもないがしろにされてきた。犠牲者女性の出身地の名護市長・稲嶺進さんは、古謝美佐子さんが歌った「童神(わらびかみ)」の歌詞の一節に触れて「(行政・政治・県民も)今回もまた、ひとつの命を救う“風かたか”になれなかった」と、悔しさに声を詰まらせて県民に語りかけた。“風かたか”とは、風雨の風よけ、防波堤を意味する言葉だ。

県民の“風かたか”の意識は、沖縄本島以外での基地建設の動きにも向けられる。

2015年5月に防衛省は、奄美、沖縄本島、宮古島、石垣島に新たに防衛基地を建設し地対艦ミサイル配備計画を発表した。幼子を持つ若いお母さんたちがSNSなどで声を掛け合い、「てぃだなふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」を立ち上げた。“てぃだなふぁ”とは「太陽の子」という意味だ。ミサイル基地の予定候補地は、島の水源地の真上に計画されている。生きていくために絶対不可欠な水源地が、攻撃目標にされる。基地が建設されると800人規模の自衛隊部隊も配備される予定だ。「戦禍の中で苦しんだ先祖がいるわけだから。私たちは小さいころからその話を聞いて心の底に平和を求める血が流れている」と語る共同代表のお母さん。

戦後、沖縄本島の米軍基地建設で南米や離島への移住を余儀なくされた人たちが石垣島にも大勢いる。島の中心にある於茂登(おもと)岳のふもとに陸上自衛隊ミサイル部隊の計画が発表された。その近隣は、本島から移住していきた人たちが開墾し、いまでは島を代表する農業地にまで育て上げてきた地域一帯だ。石垣の古民謡「トゥバラーマ」を継承する唄者(ウタシャ)でもある山里節子さんも沖縄戦を経験した一人として、「島の心臓部に基地が造られるのは、自分の心臓がえぐられる思いです」と語り、島民がまた犠牲になることを恐れる。この石垣島でも、かつて日本軍の命令でマラリヤが蔓延する山奥へ住民を移住させ3647人もの病死者をだした「マラリア地獄」の出来事が深い傷として残っている。

宮古島にも自衛隊のミサイル基地配備計画が進められている。若いお母さんたちによる「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」が生まれ、活動している (C)「標的の島 風かたか」製作委員会
宮古島にも自衛隊のミサイル基地配備計画が進められている。若いお母さんたちによる「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」が生まれ、活動している (C)「標的の島 風かたか」製作委員会

沖縄本島・辺野古新基地建設のゲート前抗議行動リーダーの“ヒロジ”さんが、警視庁機動隊200人の配備を聞いてやむにやまれぬきもちから抗がん剤治療を押してゲート前に帰ってきた。沖縄県警のベテランも“ヒロジ”さんの姿を見て声をかける。互いに10年来にらみ合ってきた仲だが、立場の違いを認めつつ闘ってきた。だが、本土から派遣される機動隊には、そうした武士同士のような真摯に渡り合う心情や痛みなどはに受けられない。北部の高江では、安次嶺現達さんらがヘリパッド建設反対の活動を続けている。7月、福岡県警による検問が始まり、やがて機動隊が続々と集結した。基地建設に反対する有志らが各地から1600人集まった。沖縄県警によって突然駐車禁止令が出され工事強行の緊張が高まる。座り込み行動を指揮する中に“ヒロジ”さんの姿があった…。

標的の島は沖縄・
先島諸島だけではない

三上監督のドキュメンタリー映画「標的の村」は、東村高江がベトナム戦争時に住民も駆り出されてベトコン村の模擬訓練場として攻撃の標的にされていた事実を指している。国の安全を守るためを建前に先島諸島や沖縄本島にミサイル基地が新設されようとしている。日本本土の防衛ラインの伸張は、沖縄県民を標的の村から標的の島々へと伸展させていく。この防衛ライン伸張は米軍立案から端を発している。沖縄の人たちは、戦場での殺戮と高揚を抑えきれない米軍兵らから“風かたか”となり犠牲者を出すまいとの気概を為政者も語る。日本本土に暮らす人々は、どこの“風かたか”の存在になっているのだろうか。 【遠山清一】

監督:三上智恵 2017年/日本/119分/ドキュメンタリー/ 配給:東風 2017年3月11日(土)より沖縄・桜坂劇場、3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開。
公式サイト http://hyotekinoshima.com/
facebook https://www.facebook.com/hyoteki.shima/