(C)CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves
(C)CVB / WIP /TAKE FIVE – 2016 – Tous droits reserves

3・11東日本大震災から6年経つが、いまだに3万3千人もの人々が仮設住宅に避難している。福島第一原発の事故で放射能汚染した土を居住地域から除去する作業が進み、避難指示解除準備区域の解除地域も広がっているが戻る人はまだ少数でコミュニティの復興にまでにはまだ時間がかかりそう。一方で、原発事故の直後から置き去りにされたペットや家畜のいのちを護り続け、避難指示解除前から自宅に戻り畑を耕して生活している家族もある。町に人はいなくなったが、水と土地と森は太陽の日差しを浴びながらいのちを育んできた。自然と大地のなかに在るいのちともに生きようとする人たちの姿と言葉をカメラが詩のように紡いでいく。

【あらすじ】

福島県双葉郡富岡町。福島第一原子力発電所から12Kmしか離れていない町。かつては桜の名所だった夜の森(よのもり)公園界隈の街並みだが、避難指示制限区域に指定された人気のない町は、荒れ果てた家屋に植物が絡みついている。いまも避難指示解除準備区域の町の郊外に暮らす松村直登(56歳)さんと父親の代祐(84歳)さん。直登さんは、フクシマ原発事故直後から非難した人たちに置き去りにされたネコやイヌなどのペット、ダチョウや牛など生き物たちの世話をしていのちを護ってきた。妻子らは避難生活しているが、父親の代祐さんは妻が亡くなったあと自宅に戻り直登さんを二人で生きものたちの世話をしながら暮らしている。

直登さんの自宅にはダチョウも自由気ままに生きている (C)CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves
直登さんの自宅の庭ではダチョウも自由気ままに生きている (C)CVB / WIP /TAKE FIVE – 2016 – Tous droits reserves

直登さんが、車に乗って同じ富岡町に住む半谷信一(82歳)さんとトシ子(65歳)さん夫妻の家を訪ねた。原発事故の避難指示で大玉村の仮設住宅へ避難したが、動物の引き取りをきっかけに直登さんと知己を得て今は仮設を出て自宅で暮らしてる。作物も生き物も「水と土で生きているんだ」と笑顔で語りながら畑仕事をしている。松村さんと半谷さんの自宅周辺でも除染作業が行なわれている。「イヌ、ネコがいなかったら、俺も逃げていた」という直登さん。「好き勝手やって85歳まで生きるか、(避難して)悩んで90歳まで生きるか、どっちがいいか」と半谷さんに問いかけると、「100歳まで生きる」答える半谷さん。避難指示が発せられた大地で生き続けている二つの家族。代祐さんは寡黙な人柄だが、直登さんと半谷さん夫妻は厳しい状況を受け入れて生きものたちや農作業をしながら笑顔でたくましく日々を送っている。

南相馬市小高地区の避難指示が解除され佐藤 有(64歳)さんととし子(63歳)さん夫妻は、ボランティアの協力を得て放射線量が高いため自宅の庭木を伐採している。準備を進めている自宅のリフォームが終わればここに戻ってきて暮らすという。線量測定器は手放さず、墓参や出先でよくチェックする。自宅での暮らしが始まるとかつてこの町で暮らしていた友人たちが訪ねてきた。結婚してこの町にやってきたが、すでに人生の半分以上を暮らしてきた町。3・11以後の国や行政の説明や対応、家族への配慮など戻るにしても戻らないにしても、それぞれの複雑な思いと葛藤する揺らぎが語らいのうちに見えてくる…。

サウンドエンジニアだったジル・ローランさんが残された大地に生きようとする3組の家族と出会い初監督した。ジル監督は編集作業がほぼ終了し内覧試写会をする予定だった2016年3月22日にベルギー地下鉄テロ事件に巻き込まれ本作が遺作をなった。 (C)CVB / WIP /TAKE FIVE - 2016 - Tous droits reserves
サウンドエンジニアだったジル・ローランさんが見捨てられたフクシマの大地に生きようとする3組の家族と出会い初監督した。ジル監督は編集作業がほぼ終了し内覧試写会をする予定だった2016年3月22日にベルギー地下鉄テロ事件に巻き込まれ本作が遺作となった。 (C)CVB / WIP /TAKE FIVE – 2016 – Tous droits reserves

【みどころ・エピソード】

原発事故直後から放射線に汚れ、見捨てられた大地に一人だけで残り、置き去りにされた動物たちのいのちを護る暮らしをしている直登さんは、ある意味有名人ともいえる。自宅のすぐ近くに原発が建てられたとき、東京電力はじめ建設関係者らは“100パーセント安全だ”“リスクはゼロ”と喧伝し、直登さんも信頼し、建設にもかかわってきた。だが、その言葉には何ら保証もない曖昧模糊としたものであることを経験し、自然と人間と原子力との共存に確固とした反対を掲げる生き方が繋がれたままだったペットたちを放ち自分でエサを探し生きられるよう寄り添うことだった。直登さんの決意と行動は、国内外のフリージャーナリストや映像ジャーナリストらが取材しマスメディア、ドキュメンタリー映画などに原子炉誘致地域を抱き込んでいく政治・行政・企業への憤懣と大地といのちの寄り添うメッセージが発信された。直登さんや半谷さんらの抗議は、生き方で証言する。その寄り添う姿をジル・ローラン監督夫人の鵜戸玲子さんが滋味豊かな問いかけで引き出していく。 【遠山清一】

監督:ジル・ローラン 2016年/ベルギー/76分/ドキュメンタリー/原題:La terre abandonne 配給:太秦 2017年3月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショーほかフォーラム福島、シネマテークたかさきほか全国順次公開。
公式サイト http://www.daichimovie.com/
Facebook https://www.facebook.com/nokosareshidaichi/

*AWARD*
2016年:第27回マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭正式招待。第36回アミアン国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞。アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭2016正式招待。京都国際映画祭2016クロージング上映。第10回マルセイユ国際科学映画祭最優秀映画賞。