女性弁護士トニーは学生時代に憧れていたジョルジオに惹かれていくが… (C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL
女性弁護士トニーは学生時代に憧れていたジョルジオに惹かれていくが… (C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

“人がひとりでいるのは良くない。わたしは彼のために、彼にふさわしい助け手を造ろう。”(聖書:創世記2章)とは、結婚が本来は“互いにふわわしく”助う対等な愛情関係であって、決して従属的関係でないことを語っている。だが本作のトニーとジョルジオの文字通り身の心も激しく求めあう恋愛関係をみるとき、自立と対等な関係を求めあう恋愛の凄まじさに“信頼”という心のつながりが薄らいでいる時代を見させられているようにも思える。「俺はロクデナシの王様だ」と飾らずに語る男を“私の王様”に受け入れた激しくも狂おしい恋愛愛憎劇。その二人の関係は、恋愛する男女の勝ち負けではなく、互いの自我を依り合う絆の激しさのようでリアルに心が痛い。

【あらすじ】
スキー場のゲレンデをかなりなスピードで滑走していた女性弁護士のトニー(エマニュエル・ベルコ)は、事故で右ひざの前十字じん帯を損傷する。ひざは後ろに屈折する間接でその動きを自分では見ることは難しい。医者はそのことになぞらえて「人は時々自分が見えなくなる」とトニーに語る。海辺のリハビリ医療施設に入院したトニーは、施設で親しくなった若者たちと談笑しリハビリに励みながらむ合間に、離婚した元夫ジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)との恋と結婚の日々を回想する。

ジョルジオと出会ったのは10年前。トニーは仲のいい弟ソラル(ルイ・ガレル)と恋人バベット(イジルド・ル・ベスコ)らと連れだってクラブで遊んでいた。学生時代に女性たちにモテて自分も憧れていたジョルジオが近くにいるのに気付いた。あまりトニーのことは覚えていない様子だったが、レストランを経営しているというジョルジオは、夜が明けると自宅のキッチンでトニーやソラルたちに軽い朝食を振る舞う。別れ際、トニーに自分の携帯を渡し暗証番号を教えて去っていくジョルジオ。一度離婚経験のあるインテリ弁護士のトニーと実業家でプレイボーイのジョルジオ、まったくタイプの異なる二人だが、この日から激しい恋愛の日々へと突き進んでいく。

ジョルジオが経営するレストランを訪れたトニーをジョルジオの元カノのアニエス(クリステル・サン=ルイ・オーギュスタン)が意識して見つめている。「妹みたいなものだ」というジョルジオは、「5年前に付き合い3年前に分かれた」という。インテリでプライドも高いトニーのセックスや思い悩みにもジョルジオは男性らしく受け入れ、トニーを護る言葉をかけて励ます。結婚する前から「お前との子どもがほしい」と言い続け、トニーが妊娠すると心から喜びを表すジョルジオ。だが、トニーの妊娠を知ったアニエスが自殺を図り、一命をとりとめた。

女性弁護士トニーは学生時代に憧れていたジョルジオに惹かれていくが… (C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL
元カノのアニエス(右)といっしょに息子をあやすジョルジオは、トニーのいらだちを気にもかけない。 (C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

ジョルジオは「俺には責任がある」と言い、アニエスの世話を続ける。アニエスから電話が来ると夜中でも彼女のところへ出かけていく。忍耐の限界を超えたトニーは、家を出て弟ソラルの所に身を寄せる。だが、子どもの出産が近いこともあってジョルジオと和解しようとするが、ジョルジオは逆にアニエスの世話を続けるので近くに部屋を買ったので別居してお互いの自由を認め合おうという。トニーとソラル夫妻を招いて新しい部屋を説明するジョルジオに、トニーは激しく怒りをあらわにする…。

【みどころ・エピソード】
物語は、トニーがジョルジオをどのように愛し、彼にどのように扱われてい来たのかを見つめるかたちで描かれていく。ジョルジオ自身、トニーに「ロクデナシとは付き合うな」といいながら「俺はロクデナシの王様だ」と吐露する。その言葉通りの振る舞いです。債務者への納金を怠り、借財管理人が家に来てトニーの家財まで接収していく。息子のシンドバッドが生まれると、トニーの目の前で自殺未遂して世話をしている元カノのアニエスに赤ん坊の息子を抱かせたり一緒にあやす無神経さ。離婚を申し入れると息子は渡さないとトニーにすごむ。一方で、息子シンドバッドを溺愛する子煩悩さや、7歳の誕生日にはリゾートホテルのレストランでトニーとシンドバッドを愉しませる思いやりとやさしさ。

“私の王様”ジョルジオの行動と真意は掴みきれない。ジョルジオが一人で悩んだり、常用しているドラッグや酒をやめようとするシーンなど一度も描かれない。ただ、トニーの前でジョルジオの行動や態度がどのように変化しているのかを見つめながら、トニーのように推し量るしかない。トニーがリハビリ施設を退院し、学校でシンドバッドの就学度説明で久しぶりに再会したジョルジオの変化を弁護士らしい観察眼で気づいたようなトニー。彼女の表情は詳らかには描かれなかったが、そのラストシークエンスを見ながら、トニーがジョルジオに「生まれたての純粋な愛にどんな意味がある? 嵐を知る前の愛はただの法則。 事件や事故、何かが起きたときに、隣りに互いを見あいだす…」という言葉と、結婚式でトニーがはにかみながら照れくさそうに誓いの言葉を受け入れるシーンが記憶によみがえった。トニーの強さと心を見つめる深さが印象に残る心理ドラマだ。 【遠山清一】

監督:マイウェン 2015年/フランス/126分/映倫:R15+/原題:Mon Roi 配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル 2017年3月25日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.cetera.co.jp/monroi/
Facebook https://www.facebook.com/ceteramonroi/

*AWARD*
第68回カンヌ国際映画祭女優賞(エマニュエル・ベルコ)受賞。第41回セザール賞主要8部門ノミネート作品。