(c)海南友子
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観る者の心中に気象変動の’いま’が、静かにわき出てくるドキュメンタリー映画だ。

国連の研究機関の発表では’世界で最初に沈む島’と予測されているツバル。南太平洋に浮かぶこの島の首都フナフチ環礁を、飛行機から望む冒頭シーンの美しさに息をのむ。’アドリア海の宝石’と称され島全体が世界遺産に指定されているベネチア。ベーリング海の最西端に位置し永久凍土に覆われていた島シシマレフ。これら3つの美しい島々を3年間かけて撮影した気象変動の’いま’が、ナレーションもBGMもなく、メモ的なテロップの表示だけで静かに美しく映し出される。

ツバルは1978年にイギリス領から独立した九つの島からなる。海抜は1・5メートル。1万1千人ほどの人口の45%がフナフチに住む。もともと珊瑚礁環を土台とした脆弱な地盤は、戦時中の飛行場作りや施設建設で掘り起こされほとんどのサンゴが死滅した。人口増加での汚水処理や生水不足なども相まって、満潮時には住居の床下にまで高潮の海水が流れ込んでくる。それでも島民はスローライフを楽しみ、電話もインターネットもないだけによく集い、よく語り合い、歌い踊り、笑う。そのいきいきとした自由な生活が、映像から語られる。

(c)海南友子
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5世紀ごろ潟の上に建てられたベネチアは、東方貿易の要所としてナポレオンに侵略されるまで千年間繁栄を誇った町。伝統的なガラス工芸、中世からの数々の絵画やアンティークなどの芸術品がホテルや街並みに今も息づいている。だが、年に80日以上アクア・アルタ(高潮)に見舞われ、サン・マルク広場やホテル、商店の床上まで海水に沈む。高潮警報が鳴り、仮設の高床を道路やフロアに住民たちが設置し、さざ波の音だけですべての運河から海水が街を覆っていく光景は凄まじくもある。

シシマレクの海は凍らなくなり、永久凍土も溶け始め土が路面の雪に混ざっている。ベーリング海に荒波は、細長い島の海岸を削り取り住居が壊されていく。狩猟民族のアイデンティティを認識する島民は、2002年に住民投票でアラスカ本土への移住を決断した。だが、移住地の目処はまだ立っていない。

どの島の住民も故郷を愛してやまない。

高潮になっても、腰まで届く長靴をはいて商売するベネチアの商人たち。床まで高潮が満ちれば、勝手口のドアからプールとなった庭先に飛び込んで遊ぶツバルの子たち。ツバルの住民はほとんどがプロテスタント信徒。シンカノじいちゃんも高校生のミリエリも中学生のシレタも異口同音に語る。「聖書を信じているから、島が沈むなんて信じてないよ。何が起こっても、神様はノアの箱舟のように助けてくださる」。
沈めさせてはいけない、島々の日常。夕餉の前に家族で讃美するハーモニーと夕日の美しさが、いまも目に浮かんでくる。   (遠山清一)

監督・プロデューサー・編集:海南友子、2009年日本映画、1時間46分。配給:ゴー・シネマ。7月10日(土)より恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー。

公式サイト http://www.beautiful-i.tv