万年脇役俳優のヒロシ(益岡 徹)と新進女優のアヤ(永作博美)のロマンスあり笑いありの人生讃歌 (c)2010 Dream On Productions
万年脇役俳優のヒロシ(益岡 徹)と新進女優のアヤ(永作博美)のロマンスあり笑いありの人生讃歌 (c)2010 Dream On Productions

東京タワー、レインボーブリッジなどのランドマークを赤いハートと青いハートが追っかけっこするオープニングのおしゃれなアニメーションが、ラヴコメディの始まりを予感させてくれて楽しい。そして、観終わった後に、自分は自分らしくありのままでいいのだという自信を心に残してくれる、温かみのある作品だ。

万年脇役俳優の松崎ヒロシ(益岡 徹)は、人のよさもあってかよく人違いされる。店先に倒れている自転車を親切心から立ち起こせば、店員と間違われてバーゲンタイムを主婦から聞かれる有様。妙にその場その場に収まってしまい、人違いされる自分のキャラクターもヒロシにはコンプレックスの一つでわずらわしい。

ある日、ホームに財布を落とした乗客にスリと間違われて駅員の前でもめている女優の卵のアヤ(永作博美)を、財布を届けて助けた。ヒロシがベテランの脇役俳優であることをすぐ分かったアヤは、ヒロシの父・健太(津川雅彦)が著名な劇作家だと知り、役者の前向きな関心からヒロシとも健太とも親しくなっていく。

著名な父親にコンプレックスを持ち、父親の作品のは絶対に出演しないと決めているヒロシにも、ツキが回ってきた。ウディ・アレン映画の日本版リメイクでの主役が決まったのだ。ところが、ひょんなことから黒岩代議士夫人トシ子(松坂慶子)の不倫相手と間違われゴシップ新聞に写真付きで掲載されてしまう。マネージャーにその新聞を突き付けられ、主役の話もご和算になったと告げられるヒロシ。後輩に協力してもらって代議士夫人の本当の不倫相手を暴いて、主役を取り戻そうとして奔走する。やっとのことで、車の中で代議士夫人と不倫相手の青年がキッスしている現場を激写したヒロシ。だが、代議士夫人が夫に虐待されていることを見てとり、青年と2人で健気に懇願されるうちに、ヒロシの心に何か遣り切れなさと、これまでなかった感情が込み上がる。

ある日、ヒロシにウッディアレン風喜劇の主役のオファーがあったが。。。 (c)2010 Dream On Productions
ある日、ヒロシにウッディアレン風喜劇の主役のオファーがあったが。。。 (c)2010 Dream On Productions

一方で、バイタリティあふれるアヤには舞台の出演が決まり、公演日に劇場に行くと今度はホール職員と間違われて迷子を預けられてしまうヒロシ。戸惑っているところに迷子の親が、ヒロシを新聞記事にあった誘拐犯を人違いして警察に突き出してしまう。

何もしていなくても人違いされて、騒ぎになる。アヤとの気持ちはすれ違いばかり。代議士夫人の不倫相手を突き止めたものの主役の話は絶望的なヒロシは、自暴自棄になりながらも自分を見つけていく。そして、自分が人生に求めているもの、本当に守りたいものが何かを考え始める。その先に見えてきたアヤの存在。ヒロシは、本当の思いをアヤに伝えることが出来るのか。また、2人の役者人生は。。。

すれ違い、人違いでの波乱といった展開は、コメディの王道。分かっていても笑えるのは、益岡 徹(初主演)、永作博美、津川雅彦、松坂慶子ら豪華な出演陣が、自然体な演技でサポートしている瑞々しさか。長編作品は初監督の緒方 篤監督も、脚本家の白鳥あかねも脇役で出演しているしゃれっ気。それは、説明的な余計なセリフはほとんどなく、テンポのいい会話とシーンの展開で物語の世界へと引き込んでいくおしゃれな映像感覚にもあふれている。

辛い状況を思わせるストーリー展開が無いわけではないが、暗い気持ちにさせず、明るく生きる方向へと観る者の気持ちを導いていく温かさ。それは、この作品を通して、観客それぞれの人生にも自分が生かされているシーン、主役となっているシーンが与えられていることを教えてくれるからだろう。
10月23日公開当日の雑誌「ぴあ」窓口調査で、満足度1位にランクインしたのもうなずける。

原案・脚本・製作・監督: 緒方 篤、脚本・キャスティング:白鳥あかね。出演:益岡 徹、永作博美。2010年、1時間37分。配給:東京テアトル。ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開中、全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.wakiyakuthemovie.com