(c)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド
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お酒を飲んでの醜態や過ちは、大目に見てしまう日本の精神風土。だが、アルコール依存症患者に対する認識は、「だらしない」「意志が弱い」など個人の自覚や行動として捉え、病気とは理解しにくい状況がまだ根強くあるようだ。

この作品は、啓発するための映画ではないが、アルコール依存症患者の日常生活の一端を垣間見ることが出来る。とりわけ、家族という人間関係の根源的なつながりと愛情を、現実的にそれでいて優しいまなざしで見つめていく。鴨志田穣(ゆたか)の同名の自伝的小説を原作とした物語だ。

戦場カメラマンだった塚原安行(浅野忠信)は重いアルコール依存症に罹っている。妻だった園田由紀(永作博美)は人気漫画家で二人の子どもにも恵まれたが、酔うと暴力をふるう症状に耐えきれず離婚している。子ども愛し、週明けの面会日を楽しみしている安行だが、「来週は素面(しらふ)で家族と会うのです。きっとです」と言いながら、ウォッカを飲み干して店内で気を失い救急車で運ばれる。安行の母親から連絡を受け、駆けつける由紀。離婚したとはいえ、安行の治療のことを医師と相談したりして何かと子どもたちの父親の面倒に関わっている。

母親にいわば強引に連れられてきた精神病院で、いよいよ病院に入院して本格的な治療に臨む安行。
断酒による離脱症状に苦しみ、夢と現実の見境が付かなくなる症状を引きずりながらも、入院治療に専念する。担当医師との信頼関係も築かれ、依存症の治療効果は次第に向上し回復に向かっているように見えてきたが、もう一つの大きな病気が安行の身体を蝕んでいた。

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アルコール依存症患者はいまも理解されにくい。その患者を持つ家族の大変さや、入院している患者たちの特異な言動など、この病気の特徴をうまく描きながら物語が展開していく。そのテンポや心の動きの主旋律に流れ続ける’一度愛した人への絆と愛情’。なかなか断ち切ることのできない人間への愛を、妻役の永作博美が自然に演じて行く姿に心が温もっていく。
キリスト教界もかつては禁酒運動、克己運動としてこの問題に関わってきたが、いまは病気としての認識が浸透し自助グループ活動や依存症患者の家族を支援する活動に発展している。
愛はなかなか断ち切れない。その苦しみと哀しさを通って’うちに帰ってきてくれてよかった’という温もり。この作品が語っているメッセージを、キリスト者も現実社会に生きる一人として受け止めて行きたい。   【遠山清一】
監督・脚本・編集:東 陽一、原作:鴨志田 穣。出演:浅野忠信、永作博美。118分。配給:ビターズ・エンド/シグロ。12月4日(土)よりシネスイッチ銀座、テアトル新宿ほか順次全国公開。

公式サイト:http://www.yoisame.jp