『ヤコブへの手紙』 2011年1月、銀座テアトルシネマほか全国順次公開 配給:アルシネテラン
『ヤコブへの手紙』 2011年1月、銀座テアトルシネマほか全国順次公開 配給:アルシネテラン

人は、誰かと心を通させているから生きていく力が湧いてくる。そのことが、フィンランドの森から木霊してくるように心安らぐ作品だ。

森に近い片田舎の教会で長年牧師を務めている盲目のヤコブと、殺人罪で終身刑を受け恩赦で12年ぶりに釈放されたレイラ。そして毎日のようにヤコブ牧師に手紙を届けに来る郵便配達人の3人が主な登場人物。そのシンプルなストーリーと田園風景が相まって、3人の名優たちが演じるみごとな心理描写は、いつまでも心に温かな余韻を刻んでくれる。

盲目のヤコブ牧師の元には、相談事や悩みごとの手紙が各地から毎日届く。その手紙を読んでもらい、祈り、聖書からの励ましを返信することが牧師としての務めと信じている。だが、手紙を読んでいた婦人が老人ホームに転居し、恩赦で釈放されたばかりのレイラが刑務所長の紹介でやってきた。行く当てのないレーナは恩赦で出所することにも不服だった。気の進まぬままにヤコブ牧師の所にやってきたが、「食事の支度はしないわよ」。「長くいるつもりもありません」とつっけんどんに言い放ち、牧師のヤコブにも心を開かない。

その日届いた郵便から、早速レイラの仕事が始まった。毎日届く手紙は、子どもの進学の相談や学校でいじめられ先生にも冷たくあしらわれている悩みなど、日常の出来事が多い。ヤコブ牧師は、その一つひとつに祈りを捧げて執り成し、聖書からの数節と励ましの言葉をレイラに書き留めてもらい返信を出す。その毎日にうんざりしたレイラは、ついには届いた手紙の半分以上を肥溜めに捨ててしまう。

img4d097fa948da7 だが、ある日から手紙が届かない日が続いた。自分は誰からも必要とされない存在になってしまったのかと深く落胆するヤコブ牧師。その心の傷は、結婚式があると言って教会へ小走りして行くほどの妄想を引き起こす。その狼狽する姿を見てレイラは、牧師館を出るためタクシーを呼ぶが行き所のない自分に改めて愕然とし、そのままタクシーを返して、自分に与えられていた部屋で自殺しようとする。そこにヤコブ牧師が教会から帰ってきたため、死に切れなくなったレイラ。盲目のヤコブは、教会で神に祈り、心の葛藤を通して神から気付かされた思いをレイラに語りはじめる。

レイラを殺人者としてしか見ていない郵便配達人に、レイラは手紙を届けるようにと詰め寄る。だが、本当かうそなのか、「無いものは配達できない」と答える郵便配達。「明日から、手紙が無くても必ず寄って声を掛けて!」と要望するレイラ。翌日届けられた1冊の雑誌。レイラは白樺に囲まれた木漏れ日の中で、いつものように椅子に座り、雑誌を破り、手紙を開封してめくるような仕草をしながら手紙を読むように語り始める。。。

ヤコブ牧師と心を通わすことができたレイラは、ヤコブ牧師が長年自分のためにとりなしの祈りをしてきたことを知る。そのラストシーンに広がる大きな赦しと人の心の温かさ。自分のために、あきらめず祈り続けている人が存在している。その包み込んでくれる神の愛が伝わってくる。   【遠山清一】

監督・脚本:クラウス・ハロ、原案:ヤーナ・マッコネン。フィンランド映画(2009年・75分)、配給:アルシネテラン。2011年1月15日より銀座テアトルシネマほか全国順次公開。

公式サイト http://www.alcine-terran.com/tegami/
クリスチャン新聞:クラウス・ハロ監督インタビュ記事 http://jpnews.org/pc/modules/xfsection/article.php?articleid=2011