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(c)2009 3C FILMS CO., LTD All Rights Reserved

心の中にある弱さ哀しさは、時として鎖の足かせのように重たい。その奥底にある小さな黒点のような哀しみが、夜明けの光に温みゆく希望を与えられる作品だ。

河北省琢州(たくしゅう)市の裁判所に努めるベテラン裁判官ティエン。法に従い忠実に判決を下してきたが、一人娘を盗難車にひき逃げされて亡くした。ティエンの判決に恨みを持つ者の犯行ではないかという噂の中で、妻との関係も重く辛い日々を送っている。

そんな折、中国が目覚ましい経済発展を遂げるさ中、ガット協定(WTO)への加盟申請に関連して刑法改正がなされる1997年、改正前に起きた2台の車を盗んだチウ・ウーの判決を宣告する時が近づいていた。公表されている新しい刑法では、死刑にはならない。だが、事件を起こした現行法では死刑判決にあたる被害額になる。新法改正直前の判決なだけに判事たちの意見は分かれた。だが、裁判長のティエンは、現行法に基づいて死刑判決を選んだ。

一方で、地元の有力な実業家リー社長は、腎臓病を患っている。腎臓移植手術を望み、調べているうちに死刑囚となったチウ・ウーの腎臓が自分と適合することを知った。チウ・ウーの処刑を早めよう、家族に処刑後の腎臓提供の了解を得ようと、お金に物をいわせていろいろ手をまわしていくリー社長。

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現行法では間違ってはいない判決だが、愛する娘を失い、そのショックから立ち直れていない妻との生活の中で、ティエンにも生きがいとなっているものを失うことの意味を考え、他人を思い遣る気持ちが芽生えていた。

新法改正への希望を断ち切られ死刑判決を受け、刑務所内で苦しむチウ・ウー。判決は覆ることなく処刑の日を迎えた。河原の刑場に立ち会う所長とティエン。処刑後の遺体を手術する病院へ運ぶため待ち構える医師たち。執行者が銃を構えた時、ティエンはある決断をして思いもかけない行動をとった。

97年当時、実際に起きた3つの事件を下敷きに脚本を書き上げたリウ・ジェ監督。死刑、処刑されたものの臓器移植という重いテーマを追いながら、その渦中に巻き込まれていく人間の心の弱さと哀しみが丁寧に描かれている。出演する俳優はたった6人。街での生活、刑務所や刑場などすべてロケーションで撮り、警官、や生活する人々や収監者らほとんどが実際の人たちを使い、情景も心理描写もリアリティ感覚が存分に伝わってくる演出。

とりわけ裁判官ティエンと妻の会話のない食事。厨房の奥の窓から小さな食卓に差し込む寂しげな陽光。監房のなかの電球の明かり。白昼、河原で執行されつつある処刑。。。人間の心のうちにうごめく罪と罰、喪失感や絶望の淵にあっても求め続けたい赦しと希望が、光の演出からも伝わってくる。 【遠山清一】

リウ・ジェ監督作品、撮影監督:大塚龍治。2009年/中国映画/1時間38分/原題「透析」(英題:Judge)。2010年マイアミ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作品。配給:アルシネテラン。3月5日(土)よりシアター・イメージフォーラム、銀座シネパトスほか全国順次公開。
公式サイト http://www.alcine-terran.com/asa/