2_large 100年ほど前、フィンランドで内戦があったというイメージがあまりない。まして、片方の陣営は’男女平等’の理念から女性の志願兵を受け入れ、2000人ほどの女性が兵士として戦った。

その内戦末期に、敗走する赤衛軍のミーナ(ピヒラ・ヴィータラ)と白衛軍の掃討隊に所属するアーロ(サムリ・ヴァウラモ)は、敵同士で出会う。貧しい小作農からの解放という理想に生きようとするミーナ。ドイツに留学した経験を持ち人間そしての自尊心は失うまいとするアーロ。人間の気高さを失うまいとする互いの信念に心が通っていくラブ・ストーリは、純愛のように美しくも儚い。

1918年1月末に戦火を切ったフィンランド内戦。’17年にロシア革命が勃発し、その年の12月にブルジョワ勢力を核としたフィンランド臨時政府がロシアからの独立を宣言した。だが、農民や労働者層は、革命を成功させたロシア軍を後ろ盾に赤衛軍を組織して内戦となり瞬く間にヘルシンキを制圧し革命政権を樹立した。だが、臨時政府の白衛軍は、ドイツ軍の応援を得て勢力を盛り返した赤衛軍幹部が4月には国境を越えてロシア領へ退却するまで戦局は見えていた。

この時局の流れをほとんど説明的なシーンなしに、ミーナが女性らしい長い髪をバッサリ断ち、赤衛軍志願兵として出兵する記念写真から、一転して敗走兵として原野を逃げ回り、銃撃戦の末に捕えられる展開で、端的明快に描いてしまう。捕虜にした女性兵たちを「ロシアの娼婦ども」と侮蔑凌辱し、翌朝には野原を走らせ脱走者として射殺してしまう白衛軍の掃討隊。冒頭に描かれる戦争の惨たらしさに心が痛む。それは、同じ国の人間同士が殺し合う、混沌とした状況から生じる狂気の’指令’でもある。フィンランド語の原題は、この’指令’を意味する。

img4da28c98635f3 生き延びたミーナを命令に従って捕えたものの、その狂気の’指令’には抗い、本来の規則に準じて正当な軍法裁判に掛けるべきだと主張する准士官アーロ。ドイツの大学で学んだブルジョア階級の教養人として理想を持ち軍人としての誇りを貫こうとする。地域を担当する白衛軍の判事(将校)エーミル(エーロ・アホ)は、人文作家でもあり、アーロはその彼の良心に従った軍事裁判に期待を寄せる。

だが、小舟で連行する途中、脱走を図るミーナの行動によって無人島に遭難してしまう二人。自暴自棄になることもなくミーナを捕虜ではあるが、一人の人間そして女性として紳士的に接するアーロ。二人の関係には複雑な変化が生まれ始める。

走行する船に発見され、軍事裁判がある陣営にたどり着いた二人。独房に入れられたミーナは、戦死した戦友マルッタの息子エイロの消息を確かめてほしいとアーロに依頼する。

エーミル判事は、教養ある准士官アーロに始めは紳士的に接する。だが、ほぼ勝利を手中にした白衛軍の狂気的な’指令’の実行と文人としてのジレンマの中で心に重いものを引きずっている。ミーナとアーロの関係に何かを感じ取ったエーミルは、ミーナの裁判についての疑念をアーロに告げ、面会を禁止する。正当な裁判を期待してきたアーロは、正義感から連行してきたミーナをなんとか助けたいと願い、行動するのだが。

ミーナとアーロ演じるピヒラ・ヴィータラとサムリ・ヴァウラモは、それぞれ2010年と2009年にベルリン映画祭シューティングスター賞を受賞している俳優同士の競演。この作品ではただひとり過去を引きずるエーミル(エーロ・アホ)の存在感に、内戦の傷の奥深さに震え未来を描けなくなった心の悲しさが伝わってくる。それでいて悲劇的な面を見つめるだけではなく、’希望’を感じさせてくれるラストシーンに救われる。  【遠山清一】

アク・ロウヒミエス監督。2009年/フィンランド、ドイツ、ギリシャ/1時間54分/原題:KASKY(Aはウムラウト付)、英題:TEARS OF APRIL。配給:アルシネテラン。2009フィンランド・アカデミー賞撮影賞受賞、2009セビリア・ヨーロピアン・フィルム・フェスティバル「ユーリマージュ賞」受賞。5月7日(土)よりシネマート新宿、銀座シネパトスほか全国順次公開。

公式サイト http://www.alcine-terran.com/namida/