(c)2011 able映画製作委員会
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サブタイトルの’INCLUSION’(インクルージョン)という言葉に、耳慣れていない方がおられるかもしれない。福祉の用語としては、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念で、「障がい者が普通の場所で普通に暮らす」共存共生の’包み込む社会’を意味している。

障がい者の自立と地域社会の偏見と無理解からの脱却というテーマを、入所施設を閉園し、職業を持ちたい、家族との同居、ペア生活さらには結婚し家庭を持って地域でごく普通に生活したいという障がいを持つ利用者らの支援を実践しているコロニー雲仙([社福]南高愛隣会)。そのコロニー雲仙の利用者らの「光太鼓」というサークルが今もある。そこから生まれた知的障がい者のプロ太鼓演奏集団「瑞宝太鼓」の活動と日常生活を追ったドキュメンタリーだ。

「瑞宝太鼓」団長の岩本さん。7歳の時に知的障がいがあるためにコロニー雲仙の施設に預けられた。だが、本人は知的障がいがあると思ったことは一度もない。周りがそういうから、そう思うだけ。自分が預けられた後、両親は離婚し、父親はまもなく亡くなった。結婚したいと思っていた岩本さんは、給食センターで働く朋子さんと6年前に結婚し、4歳の一人息子・裕樹くんと3人で小さなアパートで暮らしている。朋子さんと裕樹くんにも知的障がいがあるが、世話人さんや保育園の先生など周囲の人たちに教わり、手助けを受け支えられながら夫婦で子育てをしている。朋子さんと裕樹くんの笑顔は、なんとも幸せそうだ。

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「瑞宝太鼓」のメンバーは岩本さんと副団長の高倉さんと、団員の山下さん、辻さん、川崎さん、中村さんの6人。そして練習には、実習生の森田さん、川原さんの2人が参加している。この「瑞宝太鼓」のために世界的に活躍している太鼓パフォーマーの時勝矢一路さんが、新曲「漸新打波」を書き下ろしてくれた。同じ太鼓のプロとして認めてくれて、あえて厳しく「漸新打波」を指導していく。いや、教えるだけではなく、プロとして「瑞宝太鼓」の集中力や喜びにあふれ楽しそうに演奏する姿に、教えられたという時勝矢さん。

年間130あまりの公演を行っている「瑞宝太鼓」。新曲の練習をしながら様々な公演先で演奏前の練習にまとまりがなかったり、また、同じ知的障がいを持つ人たちとの出会いを通して、普通の生活を求めていく思いを励ましたり。岩本さんも結婚式以来会っていなかった母親の家に家族3人で訪ね、兄弟たちの家族との団らんを持つ。そんな、団員の活動やそれぞれの生活と将来への希望がごく自然に伝わってくる。

そして、本作の最終章、東京公演での新作「漸新打波」を披露演奏するシーンは息をのむ。知的障がいというハンディを超えて6人の個性がひたむきに打ちたたき合い調和した行く響きが、聴く者たちの絆を撚り合わせていくような力強さ。新曲に挑み、努力してきた結実は、評価を超えてすばらしい。普通に日々の仕事も’共生’社会への希望も、努力して進まない明日はない。彼らの太鼓の響きは、まさに心を鼓舞してくれる。

‘インクルージング’。その共生から生まれる温かなものを、この作品からも伝わってほしい。   【遠山清一】

監督:小栗 謙一。出演:瑞宝太鼓、語り:萩原聖人。2011年/日本/106分。配給:ableの会/ムヴィオラ。5月28日(土)より角川シネマ新宿、梅田ガーデンシネマほか全国順次ロードショー。

公式サイト http://inclusion-movie.com