©2009 British Broadcasting Corporation, UK Film Council and First Grader Productions Limited. All Rights Reserved.
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84歳から小学校で初めて’勉強’することが出来たキマニ・マルゲ。これはケニアでの実話の物語。ケニア独立運動のさ中を闘い抜き、国の独立に命をかけてきたマルゲ。その真の勇者が求め続けてきた’自由’であることの実感が’学校で勉強すること’にほかならない。その夢を諦めることなく追い続けた意志と勇気に、現代の文明社会に生きる中で失われつつあるなにかが、熱く伝わってくる作品だ。

1963年12月に独立したケニア共和国だが、義務教育の無償化をスタートしたのは2003年のこと。そのとき’すべての人に無償教育’というラジオや新聞などマスコミでも報じられた言葉を信じて、マルゲ(オリヴァー・リトンド)は村の小学校に入学すべく、数キロの道のりを歩いてやってきた。応対に出た男性教諭も若い女性校長のジェーン(ナオミ・ハリス)も、84歳の高齢者は小学校に入学することはできないと丁重に断る。

だが、何度門前払いされてもマルゲは、毎日歩いてやってくる。男性教諭は腹立たしげに「成人学校へ行け」と突き放すが、文字を読めないマルゲは「行っても分からなければ意味がない」と、しごくもっともな反論。小学生への教育費は税金によって賄われる。行政官や周囲の強い反対論や住民らのいぶかる声はあるが、ジェーン校長はマルゲを入学させることを決断する。

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寄る年波で視力は劣り、独立運動の時に受けた拷問で耳も聞こえにくくなっているマルゲ。生徒たちも、始めはおじいさんの同級生誕生に戸惑うが、次第になつき聞き従っていく。だが、学校を管理する行政官とは出身部族の違いもあって常に意見が衝突する。また、独立運動の戦士として捕まった時の拷問や目の前で妻を殺害された苦痛が時折フラッシュバックし、学校でも混乱のもとになりジェーン校長を苦しい立場に追い込む。次々に起こる困難な状況にも、マルゲは’勉強して獣医の資格を取得する’夢を諦めない。そして、国から自分あてに届いた手紙の内容と聖書を自分で読むという目標もしっかりと見据えている。

そんなマルゲを世界中のマスコミが’世界最高齢の小学生’として報道し一躍注目の人になった。そうなればなったで、周囲の妬ましい思いや誤解も生じ、新たな騒動がマルゲとジェーン校長の身辺に起こってくる。

年齢を基準にして短絡的にマルゲの退学を迫る当局関係者や周囲からのさまざまな脅しにも屈せず、’教育を受けたい’と願う純粋な思いを支持するジェーン校長役のナオミ・ハリス。バイプレイヤーとして経験豊富なオリヴァー・リトンドが初の主役を演じている。この二人の演技から意志を持って生き抜くことのへの真の勇気の気高さがあふれている。勇者マルゲとジェーン校長の生き様は、数十人のマルゲの同級生たちの屈託ない笑顔と行動の変化へと生き生きつながっていく。子どもたちは、大人の生き様をしっかり見ている。夏休みの公開だけに家族で観てほしい映画だ。

監督:ジャスティン・チャドウィック 2010年/イギリス/103分/原題:THE FIRST GRADER 配給:クロックワークス。7月30日(土)より岩波ホール、テアトル梅田ほかにて全国順次ロードショー。

公式サイト http://84-guinness.com