©2010 OP EVE 2,LLC.All rights reserved.
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愛するものを亡くした深い喪失感と重たい悲しみは、時にはどう歩めばよいのか方向を見失わせ、周囲の人間関係をもぎくしゃくさせる。そのようなやり場のない怒り、人を赦すこと、心の癒しを求めざるを得ない人生のテーマを、ニコール・キッドマンが心酔し制作と主演に取り組んだ秀作。

郊外の閑静な住宅地に暮らすハウィー(アーロン・エッカート)とベッカ(ニコール・キッドマン)のコーベット夫妻は、8か月前に幼いひとり息子ダニーを交通事故で亡くした。飼い犬を追って庭から道路に飛び出て車にはねれたダニー。

二人は、深い悲しみと自責の思いから立ち直れず、夫婦の関係もぎこちなくなっていく。家族を亡くした遺族たちの自助グル―プの分かち合いに二人で参加しても、ベッカは馴染めずにイラついた感情を発言者にぶつけてその場の雰囲気を壊してしまう。「パパ、心配しないで。神さまと一緒だから大丈夫よ」と亡くなった子どもの声を夢で聞いて目が覚めた。子どもが慰めてくれている。そのような発言には「神さまなら何でもできるでしょ。なぜ、子どもが必要なの!」と。

夫のハウィーは、スマートフォンに撮り置きしてあるダニーとベッカの楽しそうに遊ぶ動画を見ては、悲しい思いを慰めている。ダニーが生きていた思い出を大事にしながら、少しずつでも前に進もうとするハウィー。ベッカも前に進みたい気持ちはあるのだが、夫と同じ気持ちにはなれない。むしろ反対に、ダニーの思い出の物はできるだけ捨てようとし、家も売って引っ越したいという。

飼っている犬は、ベッカの母ナット(ダイアン・ウィースト)の家に預けている。ナットは長兄のアーサーを薬物の過剰摂取のため11年前に亡くしている。ベッカの悲しみを理解し、慰めようとするのだが、ベッカにはアーサーとの思い出に生きているようなナットの言葉は心に届かない。妹イジー(タミー・ブランチャード)の誕生パーティでも、ナットに毒づいてしまう。

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その帰り道に、偶然バスから降りてきた高校生のジェイソン(マイルズ・テーラー)の姿を見かけた。ジェイソンは、ダニーをはねた車を運転していた少年。ベッカは、思わずジェソンの後をつけていく。数日間、ジェソンの後を追い様子を伺うベッカだが、家の前でジェイソンに見つかり声を掛けられた。対面しても、不思議と怒りや責める感情は起きてこないベッカ。「事故のことはずっと気にかかっていた」と、自責の念を語り謝罪するジェイソンの気持ちを受け止めながら、ぎこちないが互いの思いを語り合うことができた。

ジェイソンは、父親を亡くしている。だが、もしかしたら父親が生きている別次元の世界(パラレル・ワールド)があって、ラビット・ホールを通ってその世界を見に行くコミックスを創作しているという。その話に興味を示すベッカ。

夫ハウィーは、ベッカの希望を受け入れて家を売却するためのオープンハウスに応じる。家の整理を手伝いに来た母のナットに「悲しみは消えるの?」と尋ねるベッカ。ナットは「いいえ」と答える。「でも、悲しみは変化するの。岩のようにのしかかっていた大きな悲しみは、いつしかポッケトに入る小石に変わるの」と、言葉を添えていくナット。ベッカの心の中で、何かが変わっていく。

同名の戯曲の原作者デヴィット・リンゼイ=アベアーが映画のための脚本を担当し、ニコール・キッドマンは、2011年度のアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にもノミネートされた。人生の悲嘆や悲憤は、人それぞれに赦し赦され、癒されていく道を必要としている。日々の営みをとおして探り求め、ぶつかり合う様々なあり方を豊かに語り合える作品だ。   【遠山清一】

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル 2010年/アメリカ/83分/原題:RABBIT HOLE 配給:ロングライド。11月5日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

公式サイト http://www.rabbit-hole.jp