以下声明文
2017年6月15日

内閣総理大臣 安倍晋三殿
法務大臣 金田勝年殿
治安維持法で弾圧を受けた私たちは
「テロ等準備罪」法案強行採決に抗議します
宗教法人 日本ホーリネス教団
教団委員長 島津吉成
総務局長 大前信夫
宗教法人 基督兄弟団
理事長 小平牧生
総務局長 澤村信蔵
私たちは日本におけるキリスト教プロテスタント教会の中で、治安維持法により歴史上最 大の弾圧を受けた旧日本基督教団第6部および第9部に属した諸教会をルーツに持つ教団と して、政府が第193回通常国会に提出し、衆参両院で強行採決により可決成立させた「組 織犯罪処罰法改正」に対し、重大な危惧を抱いています。同法は、政府の説明で「テロ等準 備罪」と名目を変えたものの、かつて戦前の治安維持法と同様の危険が指摘され、2005 年ま た 2009 年に審議未了のまま廃案に追い込まれた「共謀罪」と本質的に変わりません。犯罪 の「行為」ではなく、「思想」「言論」を裁き処罰する同法を、その危険性を自らの団体の歴 史において経験し知っている私たちは、この法律の制定を断じて容認することができません。 民主憲法のもと罪刑法定主義に立つ国の法体系を根本から改変する同法に、次の理由で反対 し、慎重な意見を無視して強行採決したことに対して抗議します。そして、私たちは、かつ て経験したような、声を潜めて生きなければならない息苦しい社会に、日本が戻らないこと を祈ってやみません。
1. 政府はテロを未然に防ぐため同法が必要と説明するが、「テロ行為」とみなされる基準が 曖昧であり、政府に都合の悪い国民の活動は、どのようなものでも「テロ行為」とみなさ れる危険性をはらんでいる。
2. 政府は一般人がこの法律の対象となることはないと言うが、治安維持法においても帝国議 会の審議で一般人は対象にしない旨説明していたにもかかわらず、実際には広く言論人や 宗教者も取り締まり対象となった経緯がある。戦前、国体にとって危険とされたホーリネ ス系教会は、礼拝に公安関係者がスパイとして入り込んで監視され、後の牧師一斉検挙に つながる証拠として礼拝説教での発言内容が聴取された。この事からも分かるように、犯 した犯罪行為ではなく思想・言論が取り締まり対象となる法律では、政府答弁のように危 険な「組織犯罪集団」だけを対象にすることに留まらず、市民団体や教会など宗教団体で も、その主張が国策に沿わないとみなされれば監視対象となることは大いにあり得ること である。
3. このような法律を作ることは、日本国憲法19条(思想・良心の自由)、20条(信教の 自由)、21条(言論・表現の自由)に明白に違反する。
4. 同法の国会審議において金田法相の答弁はたびたび迷走を繰り返し、質問に対してまとも に答えることができなかった。法案提出の当事者が問題の本質を理解しておらず、説明責 任を果たすことができないまま、かくも重大な法律を数の論理にまかせて強行可決したこ とは、きわめて無責任であると言わざるを得ない。
以上

【ホ—リネス弾圧事件】
第二次世界大戦中、日本基督教団第6部・第9部に属していたホーリネス系の諸教会は、1942年6月26日、治安維持法違反容疑で牧師らが一斉検挙され、翌年4月教会は解散 させられた。多くの牧師が投獄され、中には獄死した者もいる。ホーリネス教会では、その 信仰の特色の一つである「キリストの再臨」を礼拝の説教などで教えていたことが、天皇を 現人神とする当時の国体を脅かす危険思想とみなされ、監視・取り締まりの対象とされた。