2017年6月25日号1面

「共謀罪」(テロ等準備罪)が参議院で審議され、6月14日現在、与党が強行採決による参院通過を図る中、キリスト者有志は8日、「『共謀罪』法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志の声明」を発表。13日には東京・千代田区永田町の参議院議員会館で記者会見が行われ、呼びかけ人の安海和宣氏(ビサイドチャーチ東京牧師)、星出卓也氏(長老教会・西武柳沢キリスト教会牧師)が、声明の内容と経過、賛同者の声、国会議員要請行動の報告を行った。【中田 朗】

声明では、①政府はこの法案が成立しなければ「テロ対策」を目的とするTOC条約(組織犯罪防止条約)を批准できないと説明するが、TOC条約はテロ対策の条約ではない、共謀罪を創設しなくても批准は可能だ。政府の説明は誤っている、②何ら犯罪行為が行われていなくても処罰を許すものであり、処罰対象がいくらでも広がりかねない、③刑法の行為処罰の原則に反し、長い歴史を持つ刑事法の基本原則を覆すもの、④電話、電子メール、インターネットへの書き込みなどの日常的なやり取りを監視したり、組織に潜入捜査員を送り込んだり、仲間からの密告を奨励するなど、コミュニケーションそのものを監視する捜査方法がまん延することにつながる、⑤あらゆる思想・良心の自由、信教の自由、集会・結社・言論・出版・表現の自由などの基本的人権が侵害され、その保障に欠かせない市民の政治参加、民主主義を破壊する、⑥戦前、国会による思想弾圧、宗教弾圧を実行した「治安維持法」の再来になるのではとの危惧をもつ、などの理由を挙げ、「以上の理由によって、『共謀罪』法案に反対し、廃案を求めます」と表明している。
呼びかけ人は牧師、神学校教授、宣教団体職員、信徒、クリスチャンの弁護士、憲法学者、大学教授ら45人。ネットでの呼びかけに応じた賛同者は14日現在千45人で、呼びかけ人と合わせて千90人。11日(860人)までの内訳はキリスト者が74%、キリスト者以外が20%、無回答が6%。回答者の約48%が、「過去を忘れてはいけません」、「監視社会にしたくありません」、「国家主義に傾倒していくことを深く危惧しています」、「この法案でテロは防げません」、「よくぞ声を挙げてくれた」など、「ひとこと」に自分の思いや意見を寄せている。
星出氏は「今回の共謀罪は、かつての治安維持法よりももっと悪いと思っている」と危惧する。「計画の合意が処罰の対象となり、対象となる犯罪も676から277に絞ったと言うものの、依然、範囲は非常に広い。しかも警察権力を縛るものになっていない。かつての治安維持法の時のようなことが起こりうる」
金田勝年法務大臣が衆議院特別委員会の法案審議の答弁での「治安維持法は適法であった」との発言も指摘し、「かつての治安維持法のもと、私たちクリスチャンは被害者だけでなく加害者にもなった。逮捕された牧師たちに向かい『(逮捕は)むしろありがたいことだった』とある教団の代表者が言った。仲間が切り捨てられ、聖徒の交わりが分断された。私たちが被害者、加害者にならないためにも、この法案が廃案になるよう訴えていきたい」と述べた。
安海氏は、声明を発表した翌日(9日)から行った国会議員要請行動の報告をした。公式に発表された法務委員会のメンバーと安倍晋三首相、金田勝年法務大臣、菅義偉官房長官と2日間で25人の議員にアプローチ。「『国民に丁寧に説明します』と語っていた安倍首相を含む2人が拒否。4人は資料をポストに入れた。その他の19人は秘書対応だった。意外だったのが、金田法相の秘書がとても好意的に資料を受け取り、我々の説明を聞いてくださり、『大臣に伝えます』と言ってくださった。福山哲郎、小川敏夫、仁比聡平、野田佳彦、山添拓の野党各議員の秘書たちはとても好意的で、『一緒に廃案に持っていきましょう』とエールを交換できた」
「私はインドネシアで生まれ育ったが、70〜80年代のインドネシアはスハルト政権の一党独裁で、政権の悪口でも言おうものなら、いつのまにかその人は逮捕され行方不明になっていた。今回の共謀罪の内容、国会での議論、安倍首相の姿勢を見る時、スハルト政権時のインドネシアと相通ずるものを、皮膚感覚で感じる。一方、この声明に千人近くが4、5日足らずで賛同してくださっている。これは皆さんの思いの表れだ。愛する日本が、闇が覆う国家の仲間入りしないよう、声を上げていきたい」と決意を述べた。
「声明を出すタイミングが6月8日。もっと早い段階でできなかったのか」という記者からの質問に対し、安海氏は「法案の内容を理解し、キリスト者にとって信仰の問題だと整理をし、可決日程が報道されているなか、それでも意見表明すべきということで短期間で呼びかけ人45人を集め、このタイミングになった。もっと早く出すべきだったと、呼びかけ人の誰もがそう思っている。平安のうちに信仰生活を送れ、このような記者会見などをする必要のない世の中を切望する」と答えた。
「『共謀罪』法案に反対し、廃案を求めるキリスト者有志の声明」の全文と賛同署名は、URL http://kyoubouzaijesus.blogspot.jp/ から。