包括宗教法人日本キリスト改革派教会(代表役員・大会議長 小峯明)は6月23日、安倍晋三内閣総理大臣、大島理森衆議院議長、伊達忠一参議院議長宛てに、「共謀罪法」(改正組織的犯罪処罰法)の強行採決に抗議し、廃止を求める声明を発表した。内容は以下の通り。

共謀罪法」(改正組織的犯罪処罰法)の強行採決に抗議し、廃止を求める声明

 私たち日本キリスト改革派教会は、本年6月15日、政府与党が、内心の自由を侵害する危険性の高い「改正組織的犯罪処罰法」(以下「共謀罪法」という)を、参議院法務委員会での審議を一方的に打ち切り、委員会採決を省略して、参議院本会議で強行採決したことに強く抗議すると共に、以下の理由から共謀罪法の廃止を強く求めます。
1.共謀罪法の強行採決は民主主義の根本原則を否定する行為です
 今回、政府・与党は共謀罪法の採決に当たって、参議院法務委員会での委員会採決を省略して、参議院本会議で強行採決しました。確かに、国会法56条では、「特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる」とあります。しかし、国民のほとんどが審議不十分であると考える共謀罪法を、6月15日に緊急採決せねばならない正当な理由はありません。むしろ、国会審議の中で、政府答弁の矛盾や、共謀罪の適用に関する様々な疑問が出され、それに対して十分な説明も為されていない状況です。共謀罪法が個々人の内心の自由を侵害する危険性が高い法律であることを考えるならば、十分な審議と国民の理解が不可欠です。それをせずに、委員会採決の省略という「禁じ手」まで使って、数の力で共謀罪法を強行採決したことは、民主主義の根本原則を否定する行為に他なりません。

2.共謀罪法は「内心の自由」を侵害します
 そもそも共謀罪法はテロとは無関係な277もの犯罪を対象とし、その実行前の「二人以上での計画」や「準備行為」の段階での処罰を可能とするものです。しかし、犯罪が実行されていない段階で、二人以上で計画したといえる合意があったか、なかったかを判断をするのは容易ではなく、個人の内心の問題に対する捜査機関の主観的判断に傾かざるを得ません。したがって、犯罪の合意という内心を処罰する共謀罪法は、個人の内心をも捜査の対象とすることにもなり、権力による内心の自由(憲法19条:思想良心の自由、憲法20条:信教の自由)への侵害を推し進めることになります。
日本ではかつて、個人の内心を取り締まる治安維持法の下、個々人の思想・良心の自由、信教の自由、基本的人権が抑圧され、多くの人々が犠牲になりました。キリスト教界においても「ホーリネス弾圧事件」によって多くの教職者が検挙され、中には獄中ないし出獄後に死亡した人もいます。犯罪の合意という個人の内心を処罰しようとする共謀罪法は、かつての治安維持法と同じ危険性を秘めています。

3.共謀罪法は「集会・結社・表現の自由」を侵害します。
政府は当初、共謀罪の対象は「組織的犯罪集団」であって一般の人は対象外であると説明してきました。しかし、「組織的犯罪集団」の定義や範囲は曖昧であり、国会審議の中で政府は、「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合は、処罰の対象になる」ことを認めました。その結果、あらゆる団体が潜在的な組織的犯罪集団として監視対象になり得ることが明らかになりました。また、「一変した」との判断も捜査機関に委ねられており、捜査機関の恣意的な判断によって組織的犯罪集団と見なされた団体と関係者は、共謀罪法の対象となり、犯罪を実行していなくても処罰の対象となります。これは憲法21条の「集会・結社・表現の自由」の侵害に他なりません。この点については、国連特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏も共謀罪法が、「プライバシーや表現の自由を制約するおそれがある」「人権に有害な影響を及ぼす危険性がある」として懸念を表明する書簡を安倍首相宛に送ったほどです。

4.共謀罪法は全体主義的監視社会をもたらします。
犯罪を二人以上による計画という合意の段階で処罰するためには、早期の段階から、捜査機関によって対象団体に関係すると見なされた人々の日常生活や、思想信条に関わる事柄も含めて個人のプライバシーに対する監視が必要となります。そのため犯罪とは関係ない人々までもが監視と捜査の対象となり、個人の電話やメール、SNSなどにも監視が広がって行くことは明らかです。こうした行為自体が個人の内心の自由や通信の秘密に対する侵害ですが、このことが社会にもたらす結果は、権力によって日常生活や思想信条が常に監視されると共に、互いが互いを監視し、密告が横行する全体主義的監視社会の到来です。

5.共謀罪法はテロ対策とも「国際組織犯罪防止条約」とも無関係です。
政府は「国際組織犯罪防止条約」の批准のためには、テロ対策を目的とした共謀罪法が必要であると主張してきました。しかし、日本は既にテロ防止の国際条約を13本結んでおり、新たに共謀罪新設の必要はありません。また、そもそも国際犯罪防止条約はマフィアなどの国際犯罪組織を取り締まるためのものであり、テロ対策が目的ではありません。この点について、同条約の「立法ガイド」を作成した米国のニコス・パッサス教授も日本の新聞社の取材で明言しています(2017年5月5日 朝日新聞)。結局、政府の目的は、テロ対策に名前を借りた共謀罪法の新設によって、政府に批判的な団体や市民の活動、言論を監視し、規制することにあると考えざるを得ません。
 私たちは、神のみが良心の主であり、思想・良心の自由、信教の自由などの基本的人権は、神から与えられた侵すことのできない普遍的権利であると考えます。また、神のみが人間の心の中を正しく裁くことのできる方であり、世俗権力の統治者には人間の内心を裁く権能はありません。それ故、私たちは、日本国憲法の基本的人権尊重の原則(11条、97条)、「思想及び良心の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「集会・結社・表現の自由」(21条)を擁護すると共に、それらの自由を侵害し、全体主義社会をもたらす危険のある共謀罪法の強行採決に強く抗議し、同法の廃止を強く求めます。私たちは、安倍首相をはじめ、政府の閣僚が、日本国憲法の憲法尊重擁護義務(99条)を正しく守り、平和の実現と公共の福祉の増進のため、委託された権能を正しく行使することができるよう執り成し祈ります。