日本同盟基督教団の廣瀬薫理事長は7月3日、安倍晋三内閣総理大臣宛に、「今日の政治状況に対する私たちの声明」を出した。声明の内容は以下の通り。

今日の政治状況に対する私たちの声明

 私たちキリスト者は、この世界が創造主なる神によって創られ、その正しい管理が人間にゆだねられていると信じています。国家は神が人のために建てた権威であり、私たちは国家を尊重しこれに従います。主権在民の立憲民主主義の国である日本は、基本的人権の尊重と平和主義を原則とする日本国憲法により70年を歩んで参りました。私たちは日本の立憲民主主義を尊重し、その発展と擁護に努めたいと思います。また、私たちの日本同盟基督教団は「教憲」前文に「過去の戦争協力と偶像礼拝の罪を悔い改め」と明記し、かつて国家神道体制の下、神社参拝をすることによって偶像礼拝の罪を犯し、アジアに対する侵略戦争に加担した罪を告白しています。また、それゆえに日本国憲法が掲げる平和主義と基本的人権を尊重しています。ところが今日の政治状況を見るとき、憲法が求めるあり方に背く傾向が顕著であると懸念し、政治のために祈り、奉仕する責任としてこの声明をいたします。
 「彼(上に立つ権威)があなたに益を与えるための、神のしもべだからです。」(聖書ローマ人への手紙13章4節)
 「剣を取る者はみな剣で滅びます。」(聖書マタイの福音書26章52節)
2012年4月、自由民主党は「日本国憲法改正草案」(以下「自民党憲法草案」という)を決定しました。自民党憲法草案は、日本国憲法第10章「最高法規」において基本的人権の保障を規定した97条を全面削除しています。国防軍の創設を規定し、内閣総理大臣が緊急事態宣言を発すればあらゆる人権保障が停止する条項を加えています。また、20条では政教分離規定に「社会的儀礼又は習俗的行為を超えないもの」という例外を設け、天皇を元首とし、国民に「日の丸・君が代」を尊重する義務を規定しており、天皇を中心とした新たな国家神道体制により、信教の自由、思想・良心の自由の侵害が懸念されます。
そして、第二次安倍政権は、上記自民党憲法草案の憲法観を実現する政策を推し進めています。2013年に国家安全保障会議(日本版NSC)関連法、翌2014年、武器輸出三原則見直し、および集団的自衛権の行使容認を閣議決定、2015年日米防衛協力の指針(ガイドライン)再改定、同年、他国軍の戦争への加担を可能とする安全保障関連法を成立させ、軍事国家化を加速化させています。その上、核不拡散条約再検討会議第2回準備委員会における核兵器の人道的影響に関する共同声明の賛同署名を拒否し(2013年)、核兵器禁止条約について交渉する国連会議開催の議決に反対し(2016年)、核兵器禁止条約の交渉会議には不参加を表明しました(2017年)。
 また、2013年には特定秘密保護法を成立させ、2017年6月には組織的犯罪処罰法を改正し「共謀罪」を創設しました。金田勝年法相は法務委員会で、治安維持法による拘束・拘禁は適法と答弁しましたが、戦時下のホーリネス系教会への弾圧を知る私たちは懸念を深めました。
首相の伊勢神宮参拝や靖国神社への真榊奉納、閣僚の靖国神社参拝は後を絶ちません。「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱に関しては、教育や行政の現場では身体の所作を縛るまでの強制が行われ、キリスト者を含む多くの方々の人権侵害がなされて来たことに心を痛めて来ました。最近さらに「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱を国立大学へ要請し、保育所や幼稚園にも「日の丸・君が代」に親しむべく「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」を改定しました。2017年の「天皇退位特例法」成立で、神道儀式の「大嘗祭」が政教分離原則を侵す形で行われることがないことを要望します。
 安倍首相は、本年5月3日、日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のイベントにビデオメッセージを寄せ、2020年の改正憲法施行の考えを表明しました。さらに、憲法9条への自衛隊の明記、緊急事態条項の創設などを中心とした自民党案の、2018年の通常国会への提出をめざしていると報道されています。
 こうした政治状況を見るとき、個々の政治課題への賛否には多様性があるとしても、総体がセットとして機能し、聖書が教える「人格」として創造された人間の尊さが侵されて行く状況が見られることに心を痛めています。私たち日本同盟基督教団は、信仰と生活の唯一絶対の規範である聖書のみことばに従いイエス・キリストを唯一の主と告白する者として、神のみ旨と人間の尊厳を大切にする歩みをめざします。かつてその歩みを貫くことができず、国家神道体制の下、神社参拝をすることによって偶像礼拝の罪を犯し、アジア諸国の人々にもそれを強要し、アジアに対する侵略戦争に加担した罪を告白し悔い改めます。今日の政治状況に対して以下のことを声明し、この国に公義と正義が行われることを希求します。
 1.私たちは、国家神道体制と戦争惨禍に対する猛省から成立し、70年間尊重されてきた日本国憲法の主権在民、基本的人権の尊重、平和主義の原則を後退させる憲法改正に反対します。
 2.私たちは、主権者である国民の要望によってなされるべき憲法改正の発議が、議会制民主主義ひいては民主主義の精神に悖る強行採決によってなされることがないよう強く要望します。 
 3.私たちは、日本が戦争被爆国また原発事故による放射能被害の中に未だにある国として、核兵器廃絶へ向けて主導権を持って積極的に取り組むことを強く望みます。
 4.私たちは、教会と国家がそれぞれの役割を良く果たすために政教分離の原則が守られ、信教の自由が保障され、国家行事や公立学校の中に神道行事が混入しないように強く求めます。
 5.私たちは、歴史を心に刻み、過ちを繰り返さないことを誓うと共に、諸国の人々との和解を求め、武力に拠らない平和主義をもって日本が世界の平和に貢献することに協力します。
 「公義を水のように、正義をいつも水の流れる川のように流れさせよ。」
                              (聖書アモス書5章24節)