©2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved
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アカデミー賞女優で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使を長年務めたアンジェリーナ・ジョリーが、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年4月―1995年10月)を下敷きに脚本を書いた初監督作品。YouTubeなどに掲載されている予告では、「この映画が紛争による性暴力、国際的介入の不足など、様々な問題についての議論を促すことを願っている」と、その制作意図を明確に語っている。そのメッセージどおり、暴力拒絶を訴える強い意志表示あふれる作品だ。

恋仲だった画家を目指すムスリム系のアイラ(ザーナ・マリアノビッチ)と、セルビア人の警官・ダニエル(ゴラン・コスティック)の二人が、突然の紛争勃発によって引き裂かれ、上級指揮官と捕虜の立場で再開した後の関係をとおして戦場の現実を厳しく描いていく。

子どもが生まれて間のない姉レイラ(バネッサ・グロッジョ)と同居しているアイラ。恋人ダニエルとの交際も順調でアイラにとっては楽しい日々。だが、そのダニエルとのデート中、店の近くに仕掛けられた爆発から突然始まった紛争。

間もなく町はセルビア人勢力に包囲され、侵入してきた軍によって’民族浄化’が始まる。建物を破壊し、ムスリム系住民を町から強制的に排除していく。戦える年代の男性たちは、捕まれば並列に立たせて次々銃で撃ち殺していく。女性は捕虜施設で雑役をさせたり、公然と行われるレイプ。まさに見せしめ的に、暴力によって特定の民族を根絶しようとする凄惨な状況が繰り返されていく。

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捕虜になったアイラも、捕虜や兵士たちの前でレイプされそうになった。将校になっていたダニエルは、その場で止めさせ、アイラを自分の’所有物’として、自分の肖像画を描かせる。なんとかアイラを助けようとするダニエル。だが、アイラは同じムスリム系の同胞が’民族浄化’の暴力に辱められ、命を奪われていくことを見過ごすことは出来ず、苦悩する。やがて、ダニエルの父親ネボイシャ将軍(ラデ・シェルベッジア)の耳にも二人の関係が伝わり、ダニエルの配置の異動が決まる。

かつて、第2次世界大戦時には、ナチス・ドイツの傀儡だったクロアチア・ファシスト政権がセルビア人に対する’民族浄化’を示唆していた。民族の優越性を暴力で勝ち取ろうとする奥深い罪性は、独立問題と絡まり悲劇的な紛争を引き起こした。多民族が互いに共存しながらも、ある時なにかをきっかけに突然勃発する扮そうと’民族浄化’。その複雑さに関して作品では、ほとんど語られていない。セルビア勢力の当時の暴力行為は事実なのだろうが、勧善懲悪的な展開に分かりやすさの持つ危惧を感じさせられる。だが、監督・脚本・製作者として伝えたいメッセージは明確に伝わる力作であることにはちがいない。 【遠山清一】

監督・脚本:アンジェリーナ・ジョリー 2011年/アメリカ/127分/英語/映倫:R15+/原題:In the Land of Blood and Honey 配給:彩プロ 2013年8月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト:http://saiainodaichi.ayapro.ne.jp
Facebook:https://www.facebook.com/saiainodaichi?fref=ts