ハーブだけでも150種はあるというベニシアさんの庭 ©ベニシア四季の庭製作委員会2013
ハーブだけでも150種はあるというベニシアさんの庭 ©ベニシア四季の庭製作委員会2013

「シャローム」とはヘブル語で「平安」。転じて、「神の平安がありますように」と出会いやさよならの挨拶言葉でも使われている。貴族の家に生まれ、人生の意味を探す旅に出てインドから日本の京都・大原に移り住んでいるベニシア・スタンリー・スミスさんは、NHK番組「猫のしっぽカエルの手 京都大原ベニシアの手づくり暮らし」で知られるイギリス人女性。彼女のガーデニングと自然を慈しむ日々の暮らしを追ったドキュメンタリー。それだけにとどまらず、結構波乱に満ちたベニシアさんが、いつも笑みを絶やさず、出来事を肯定的に受け止めていくベニシアさんの「シャローム」な心と家族のドキュメンタリーに、見る者の心が和まされる。

ベニシアさんの生家は、ロンドン郊外にある「ケドルストンホール」。その生家を訪ね、貴族社会の生活と人生観に馴染めず、生きている意味を求めてインドに渡り、日本の自然と文化に魅かれて住みついた話も、冒頭部分に語られている。

その青年期の積極的な生き方にも十分引き付けられる。だが、日本での人生は、さらに波乱万丈。最初の結婚で二人の子どもの恵まれたが離婚。京都で英会話教室を開き、山岳写真家の現在の夫との出会いと出産。娘の病気や夫の事故など、人生の試練ともいえる出来事が、自宅の庭いじりや植物を活かしたジュース作り、家具掃除など暮らしの知恵を織り込みながら語られていく。

孫の浄(じょう)くんは、ベニシアさん曰く「我が家で一番、大原に顔が広い」 ©ベニシア四季の庭製作委員会2013
孫の浄(じょう)くんは、ベニシアさん曰く「我が家で一番、大原に顔が広い」 ©ベニシア四季の庭製作委員会2013

「いまごろ、この辺りをモンペ姿で出歩いているのはベニシアぐらい」と、大原の人々にも親しまれ古民家で暮らすベニシアさんは、手作りの庭にいるとき「神さまが側にいるようで、天国にいるみたい」とほほ笑みながら言う。

聖書には、神はアダムとエバにエデンの園の植物や生きものを管理する労働を与えていた記述がある。苦役に感じさせなかったであろう労働。自分の目の前に起こるさまざまな出来事を、「シャローム」な心持ちで惑わされずに受け止めていくベニシアさん。その日々の暮らしを支えるガーデニングとスローライフの安らぎ。ベニシアさんのエデンの園に招かれているような心持ちになる。 【遠山清一】

監督:菅原和彦 2013年/日本/98分/ 配給:テレコムスタッフ、NHKエンタープライズ 2013年9月14日(土)よりシネスイッチ銀座にてロードショーほか全国順次公開。
公式サイト:http://venetia.jp
Facebook:https://www.facebook.com/venetia.movie?fref=ts