文字盤を見つめる瞳の角度で言葉を綴りコミュニケーションをとるジェイソン。 © Opus Pocus Films

ジェイソン・ベッカーは、いまは日本を愛し日本を拠点に活躍している元メガデスのギタリスト。マーティ・フリードマンと1987年にカコフォニーを結成し、翌年に来日公演を果たしている。その後、フリードマンは90年にメガデスに加入し、ベッカーはイヴィッド・リー・ロス・バンドに参加。だが、ベッカーは筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、ツアーに参加できないまま脱退した。’異なる次元にいるギタリスト’と称えられた名声は、伝説の扉の向こうに消えるだけかと思われたが、いまも難病と闘い、音楽で人々に生きる勇気を与えている。彼のミュージシャンとしての生き様を丹念に描いているドキュメンタリー。

少年時代のジェイソン。ソファに座っている家族とギターをかき鳴らしながらボブ・ディランを歌う。難病と闘い続けているドキュメンタリーだが、ジェイソンの愉しそうな躍動感が全編を貫いている。
イヴィッド・リー・ロス・バンドに参加したころから握力や歩行にALSの軽い症状が出始めていた。ツアー前のジェイソンを姉が無理やり病院で診察させALSと診断され、3年から5年の余命宣告を受けた。1stアルバムが完成し世界デビューを目前にした20歳前半のジェイソン。止む無くバンドを退き、ツアーは中止された。
だが、コンピュータ・テクノロジーの先端技術は、音楽をあきらめないジェイソンのハートと頭の中の楽曲を表現していく。顎(あご)で作曲できるシステムプログラムが開発され、動かせなくなった口に代わって、アルファベットの文字盤を瞳の角度で認識できるソフトウェアで言語コミュニケーションも取り戻していく。

マーティー・フリードマン(左)はカコフォニーを結成したデビュー当時からの親友。 © Opus Pocus Films

重い難病を持ちながらも、生かされている喜びと気力を全力で表現するジェイソン。彼を支える家族や介護する人々の負担は、決して軽いものではない。だが、ジェイソンの生きようとする姿勢と努力が、何かの力を周囲の人々に与えていく。ジェイソンのライブ演奏は聞けなくとも、ジェイソンの楽曲はミュージシャンたちによって感動の輪を広げている。
今年5月にリリースされた親友マーティ・フリードマンのニューアルバム「Inferno」には、ジェイソンとの共作’ Horrors’も収められている。ジェイソン自身が語る「ぼくは、まだ生きてるよ」のひと言は、ALS患者の人たちだけでなく、すべての人々への励ましのメッセージなのだろう。 【遠山清一】

監督:ジェシー・ビレ 2012年/イギリス=アメリカ/87分/原題:Jason Becker: Not Dead Yet 配給:マウンテンゲートプロダクション 2014年11月8日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。
公式サイト:http://notdeadyet.jp
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