スザンナの美しさと音楽的才能に魅せられていくモーツァルト (C)TRIO IN PRAGUE 2016

18世紀古典派音楽家の巨匠ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756年1月27日~1791年12月5日)のオペラ代表作「ドン・ジョバンニ」のモチーフを、史実とフィクションを織り交ぜながら音楽ドラマとして展開する恋愛悲劇。モーツァルト自身を主人公に描いた映画作品は意外と希少で、サスペンスフルな記念作品が、生誕260年を思い起こさせてくれる。

【あらすじ】
1787年、ウィーンでは不入りだったモーツァルト(アナイリン・バーナード)のオペラ「フィガロの結婚」だが、プラハのノスティッツ劇場での上演は大好評で、貴族や名士たちの歓喜にとどまらず使用人たちまでもメロディーのひと節を口ずさむほど人気を博した。プラハの社交界ではモーツァルトを招き新作オペラを作らせたいと湧いている。その話題にノスティッツ劇場のパトロン、サロカ男爵(ジェームズ・ピュアフォイ)が旅費のほとんどを支援し実現することになった。

プラハに招かれたモーツァルトは、三男ヨハンが生まれて間もなく死亡したばかりで、失意の中にあった。妻コンスタンツェ(シャーロット・ペーター)は、心の悲しみを癒すため次男カールとともに温泉療養に出かけていた。単身プラハに着いたモーツァルトは、「フィガロの結婚」の話題で持ち切りなことに気をよくし、ソプラノ歌手でもあるヨゼファ・ドゥシェク夫人(サマンサ・バークス)の館で新作オペラ「ドン・ジョバンニ」の仕上げとレッスンに取り掛かる。

モーツァルトは、オペラ「フィガロの結婚」でケルビーノ役に抜擢された若いオペラ歌手のスザンナ・ルプタック(モーフィッド・クラーク)を一目見て、彼女の美しさと才能に魅せられてしまう。スザンナも初めは憧れだったが、モーツェルトの個人レッスンをとおして、しだいに恋心へと思いが深まっていく。

(C)TRIO IN PRAGUE 2016

サロカ男爵は、屋敷の召使や劇場の衣装係など女性に手が早い猟色家でなにかと黒いうわさがささやかれている人物で、スザンナの抜擢も邪まな狙いからだった。サロカ男爵は、スザンナを成功させてからパトロンとして自分の手に堕とそうと目論んでいたが、モーツァルトの出現で二人が恋仲に発展していることを察し、スザンナの父親に結婚を申し入れる。その噂はプラハ中に広まり、サロカ男爵に恐怖心を抱くスザンナを守るため父親ルプタック氏に注進するが一蹴されてしまう。サロカ男爵もモーツァルトの追い落としを謀るが、思うように進まず嫉妬と顔に泥を塗られた屈辱感に燃えて暴挙に出る…。

【見どころ・エピソード】
“百塔の都”と形容されるプラハの街並みの美しさが、恋愛と嫉妬の激しい情念を降りしきる雪景色のなかに溶かし込んでいく。歌劇「ドン・ジョバンニ」のモチーフが、三人の織りなす悲劇への物語を華麗に歌い上げていて音楽映画としても充実感のある作品。

登場シーンは少ないが、モーツァルトの評伝では“悪妻”と評されるコンスタンツェだが、モーツァルトが療養中の妻へ送る手紙や「ドン・ジョバンニ」が上演される直前にプラハに到着してからの演出では、互いに信頼し合っている夫婦のように見て取れる。「ドン・ジョバンニ」初演間際まで序曲を書き上げていたというエピソードも、助け手としての妻の能力と存在を物語っているかのようで心憎い。 【遠山清一】

監督:ジョン・スティーブンソン 2017年/UK=チェコ/英語/103分/原題:Interlude in Prague 2017年12月2日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://mozart-movie.jp