宣教と福祉のグローバルな課題 第39回「東アジアに目を向けて」(上) 良き訪れをたずさえて〜地域の福祉を担う

 欧米の福祉と教会

 本年9月11日のクリスチャン新聞50周年記念シンポジウムで、「日本の教会はガラパゴス化しているのではないか。もっと海外の情報を」という意見があった。「教会と福祉のミニストリー」というテーマも一歩外へ目を向けて見ることは必要であろう。

 しばしば北欧の国々が福祉先進国として取り上げられる。学生からも「福祉の予算を増やせば日本もスウェーデンのような福祉先進国になれるのか?」という質問も受ける。だが歴史、伝統、宗教などの様相が根本的に異なるのでそう単純ではない。北欧の国々の場合、ルター派教会が国民教会となり、聖職者たちは政府の官僚群に編入され、福祉を供給するシステムもその脈絡で発展してきた。市民が属する教区に信頼するように、地方政府への信頼も厚く、高負担・高福祉が成り立っている。

 スウェーデンでは出生率が1・8%でも、移民・難民政策でカバーし、多文化共生社会を形成している。すでに政府閣僚の中にも移民・難民出身者がいる。外国人に地方参政権すらない日本とは市民社会の成熟度が雲泥の差だ。ヨーロッパの他の国々は、カトリック、プロテスタント、ヒューマニストがモザイク状に入り組んでいるが、カトリックでいえばカリタス、プロテスタントでいえばディアコニアと称される福祉グループが社会の中で一定の役割を果たしている。例えば、ドイツの教会が今も難民支援に関われることとディアコニアの活動の歴史と精神は無関係ではない(ちなみに1963年制定の老人福祉法における特別養護老人ホームは、ドイツのディアコニア活動の支援により国内に創設された介護施設がモデルである)。

 一方でアメリカの場合は、国家から離れた自由教会であり、個人の自由と共に自己責任も重視される。従って税金をつぎ込んだ福祉制度は脆弱だ。その代わり、教会や関連する非営利団体などが慈善事業的にそうした制度の不備の穴を埋めている。教会やキリスト教団体の献金や事業の規模がこれまた日本のそれとは比較にならない。以上の理由から、日本の教会と福祉というテーマを考えるにあたり、欧米の例は参考にしにくい。

 老いていく東アジア

 それでは日本が位置する東アジアという文脈ではどうか。1970年代に日本を追うように高い経済成長を続けてきた東アジアの国々(NIES =韓国、台湾、香港、シンガポール、ASEAN4か国=タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン)は、貧困が撲滅されたわけではないが、一人あたりの所得水準も日本と大きな遜色がないといえるくらいまでに上昇した(「東アジアの奇跡」世界銀行報告書1993年)。一方で近年は、労働力人口の豊かな人口ボーナス期は終焉に向かい、徐々に高齢化、人口減少社会に向かい始めている。

 高齢化率7%から14%の高齢社会へ移行する日本のスピードは、欧米諸国の4分の1の速さだといわれてきたが、中国は26年でほぼ同等、台湾は23年、韓国は18年、タイは20年と日本をしのぐスピードである。中国の場合は、老年人口の規模が2015年時点で1・36億人と桁違いに大きく、地域格差も大きい。加えて社会保障制度の未発達と長期にわたる一人っ子政策の歪みは、今後国を揺るがしかねない問題を内包している。さらに中国では、介護制度も人材養成も遅れており、この領域での技術宣教師のニーズもある(教会と福祉のミニストリーと世界宣教との接点)。中国との関連で付け加えれば、日本の福祉企業の進出と日本文化になじめない高齢中国帰国者(いわゆる残留孤児)の課題解決は喫緊だ。

 北欧にあこがれ、ケアの技術やソーシャルワークの方法論においては欧米に依拠して発達してきた日本の福祉。しかし、東アジアの国々から見ると、東洋的な思想と世界観をもちつつ急速な高齢化に対応した日本の福祉制度と介護技術は着目されている。日本の教会も、アジアの宣教と福祉という文脈でグローバルに課題を捉え、関心を払う必要がある。

 残念ながら、中国で見聞した宣教の働きや福祉的奉仕のことは、お国柄の事情で公表できない。隣国の韓国には成長したすばらしい教会があるが、教会自身が地域の福祉を担うといった実践はあまり例がない。そこで歴史的にもつながりが深く、日本の教会と福祉を考えるにあたって参考になる台湾の事例を紹介していくことにしたい。

井上貴詞=東京基督教大学国際キリスト教福祉学科キリスト教福祉学専攻准教授

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