ライブバーで歌うフェリシテ (C)ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017

中部アフリカ・コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。人口およそ900万人を抱える大都市だが、貧富の格差は大きく、アフリカでもっとも危険な都市ともいわれる。ダウンタウンのライブバーで歌う一人の女性の身に起こる出来事を、彼女が何を感じ何を見つめているのか、その内面の描写をとおしてキンシャサの暮らしを感じさせてくれる作品。大都市のダウンタウンで必死に生きる息遣い。コンゴの音楽シーンが生活の場で作品感じさせられる演出。アフリカの近代化と神秘性の波間に身体を浸かっている感覚が、なんとも印象的な映画だ。

【あらすじ】
フェリシテ(ヴェロ・ツァンダ・ベヤ)は、場末のライブバーで歌いながらひとり息子サモ(ガエタン・クラウディア)と暮らすシングルマザー。エネルギッシュなフェリシテの歌声に、常連客のタブー(パピ・ムパカ)が酔って踊りながら近づいてきてフェリシテにちょっかいを出す。フェリシテに適当にあしらわれたタブーは、すぐ別の女を口説きに行く。

ある朝、フェリシテの自宅の冷蔵庫が動かない。近所の子どもに修理屋を呼びに行かせるとタブーがやって来た。冷蔵庫のファンの具合が悪く、修理より新品を買う方がいいという。フェリシテは、渋々タブーに新品の代金を渡して探してもらうことにした。

病院から電話が入った。サモが交通事故に遭って運ばれてきたという。急いで病院に駆けつけると、サモは開放骨折で、手術代と治療費で100万コンゴ・フランかかる。しかも医師は、前払いでないと手術できないという。取り急ぎ、薬を買いなさいと処方箋を渡されたが、まだサモの顔を観ていないフェリシテはサモのベッドの傍に行く。すると、隣りのベッドの見舞客らしい女性が、話しているうちに自分が代わりに薬を買ってきてあげようと親切に申し出てくれた。フェリシテは、処方箋と薬代をその女性に手渡したが、女性は戻ってこなかった。めげている暇はない。手術代と治療費を何とか工面しようとフェリシテは奔走する。事情を知ったバンド仲間やタブーはバーの客からフェリシテのためにお金を集めてくれた。翌朝、タブーが来て机の上に冷蔵庫の代金を置き冷蔵庫の修理を始めた。

別れたサモの父親の所に行ったが「強い女になると言って俺を捨てたろう。うぬぼれの代償だ」とののしられて追い返された。切羽詰まったフェリシテは、地元の顔役の屋敷に「妹だ」と名乗って無理やり入り込み、なりふり構わずボスにお金を無心する。その必死さを見たボスは「もう二度と来るな」と脅しながらお金をくれた。急いで病院へ行ったが、サモは容態が急変し緊急手術で脚を切断されていた。

貧しくともプライドをもって生きるタブーはフェリシテを気遣うが… (C)ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017

タブーがサモを自宅に連れ帰ってくれて母子を気遣う。近所の人たちも訪ねて来てフェリシテとサモを慰め励ます。だが、フェリシテのなかで何かが崩れていく。ライブバーのステージに戻ったが、フェリシテは歌えなくなってしまう。自分の心の定まらないままフェリシテは夜の森のなかを彷徨い、オカピが水を飲んでいた湖に入っていく…。

【見どころ・エピソード】
セネガル人を父親に持つアラン・ゴミス監督は、自身のルーツ、セネガルを舞台に本作の物語を書き始めていたという。だが、伝統的なアフリカの音楽を都会化したサウンドで演奏するカサイ・オールスターズと出会い、彼らが活動するアフリカの大都市キンシャサに舞台を変えた。カサイ・オールスターズの演奏でフェリシテが歌う冒頭のシーンからキンシャサのアフリカン・サウンドと暮らしの空気感に引き込まれていく。

フェリシテとは「幸福」という意味。彼女は、お金を無心するため叔母を訪ねたとき出生秘話を聞かされる。彼女は幼いときに一度死んだが、葬式の時に生き返った。その時、両親がカビンガという名前からフェリシテに改名したという。歌っているときは輝いていて幸せそのもののフェリシテ。だが、貧しい暮らしのなかで“強い女”になろうと生きてきた彼女の目の前に起こる艱難辛苦の現実。“幸福”とは遠く感じられるフェリシテの機微が、生かされている自分を素直に見つめる強さを体得したような映像美がアフリカの風情に映し出されている。 【遠山清一】

監督・脚本:アラン・ゴミス 2017年/フランス=セネガル=ベルギー=ドイツ=レバノン/リンガラ語・チルバ語・フランス語/129分/原題:Felicite 配給:ムヴィオラ 2017年12月16日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほかロードショー。
公式サイト http://www.moviola.jp/felicite/
Facebook https://www.facebook.com/わたしは幸福-フェリシテ-276498422852976/

*AWARD*
2017年:第67回ベルリン国際映画祭審査員大賞受賞。FESPACO(全アフリカ映画祭)グランプリ エタロン・ドール受賞。*12月14日に第90回アカデミー賞外国語映画賞ショートリスト(9作品)に選出された。ノミネート5作品の発表は1月23日に行われる