旅をして思索する人だ。著者のジャーナリズムは定点観測ではない。悩みもがきながら、人と出会い変えられ、事件に衝撃を受けて模索し、聖書の言葉を再発見するものだ。

『ソウル・サバイバーー私を導いた13人の信仰者』
フィリップ・ヤンシー著 山下章子訳

いのちのことば社  2,800円税込 四六判

原書は2001年9月20日に発行予定だった。その直前、あの9・11テロが起きた。10日後「グラウンド・ゼロ」を訪ねた著者は本書に通底する、「私は何者か」「私はどんな人間になりたいか」という問いをみしめた。著者の旅は個人旅行ではない。米国、世界の教会の痛み、人間の根源的な問いを、全身全霊で受け止め、言葉にしていくのだ。

旅は現在進行形だ。9・11以後の米国はもとより、トランプ政権へのコメントなどを著者のブログから知ることができるだろう。

日本にとっても他人事ではない。評者がこれを書くこのとき、著者は日本に滞在中(2月18〜26日)だ。12年に著者は東日本大震災後の津波被災地を訪問している。今回は福島第一原発事故のあった帰還困難区域にある教会を訪れた。長崎の爆心地(グラウンド・ゼロ)に立ち、キリシタンの里で一昨年マーティン・スコセッシ監督により映画化された遠藤周作『沈黙』 の源流をたどった。日本のトラウマを自分事として著者は見つめた。私たちも著者と旅をともにしているのだ。

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著者は被害者だった。加害者でもあった。1950〜60年代に米国南部で白人として育った著者は、黒人差別が常態化していた社会と教会の変わり目を目撃した。固定観念に囚われていた教会のあり方に、自身も「虐待されていた」とまで表現する。

著者は今年没後50年を迎えるマーティン・ルーサー・キング牧師を本書の「13人」の筆頭として紹介した。

深い思索と洞察にあふれるこのジャーナリストを導いたのは、やはり言葉の人、作家たちだった。

「神との関係を狭めるのではなく、むしろ広げられることを証明」したチェスタトン、自然と創造への喜びに目を向けたディラート、「生活の素地」から物語を見出したビュークナー、恐れの中に喜びを発見したジョン・ダン、理想を追求したトルストイ、生き様をさらして神の愛と恵みを示したドストエフスキー。

「作家と読者の障壁」を超えたナウエンを始め、ブランド、コールズ、クープなど医療関係者もいる。イエスの生き方に影響を受けたガンジーや手探りで信仰を探した遠藤周作からは、西洋と東洋の葛藤を見つけられるだろう。

それぞれ失敗、弱さもある人たちだったが、それらも含めて著者は受け止める。日本の教会でも語りつくされていない分野、政治とキリスト教倫理やLGBTのテーマへのヒントも見いだせる。