『ビッグ・シック』main
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 大学を出てコメディアンを目指すアジア系アメリカ人青年が、白人女性と恋に陥り家族観・宗教観など2人を取り巻く異文化ゆえの摩擦から起こる様々な障害に遭いながら人間成長していくラブコメディ。

 パキスタン移民を両親に持つクメイルは、シカゴで医者として成功した父アズマと母親べスから「弁護士になるように」迫られている。だがコメディアンとして身を立てたいクメイルは、ウーバー(自分の空き時間と自家用車を使って顧客を目的地まで運ぶシステム)の運転手をしながらコメディクラブでチャレンジしている。

 両親が厳格なイスラム教徒の家庭で育ったクメイルは、パキスタンとイスラム教徒の家庭の異文化ネタをステージで話している。そのギャップはクメイル自身の悩みでもある。とりわけ結婚は“お見合い結婚”しか認められない。母親がクメイルに渡して紹介したお見合い相手の写真は、クッキーの空箱をいっぱいにしている。ある夜、クメイルはコメディトークに野次を入れた大学院で心理学を学んでいるエミリーと知り合った。すぐに親密になり、エミリーは結婚を真面目に考えていた。それが、クメイルの部屋でクッキー箱いっぱいの見合い写真を見たことから突然の別離。それから間もなく、エミリーが原因不明の重病で緊急入院し、重篤な状態なので傍に居てあげてほしいと友人から連絡が入る。一晩、昏睡状態の彼女の病床に付き添ったクメイル。翌朝、エミリーの両親が病院に駆けつけてきた。エミリーからクメイルとのことを聞いていた両親は、彼に連れない態度をとる…。

 この物語は実在するクメイル自身の体験であり、本人が脚本を書き主役も演じている。パキスタン移民の成功者は多く、ストーリー展開にもリアリティがある。客がムスリムのクメイルに「ISISへ帰れ」と野次ったことが大きな展開につながる。“統合”を理念としたオバマ大統領から“分断”の種を撒くトランプ政権へ。アメリカの“いま”を垣間見ることができる。ラブコメでは終わらない作品でもある。 【遠山清一

監督:マイケル・ショウォルター 2017年/アメリカ/120分/原題:The Big Sick 配給:ギャガ 2018年2月23日よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次ロードショー。http://gaga.ne.jp/bigsick

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