4月4日キング牧師没後50年にちなみ、今日から3日間3者の寄稿をオンラインで掲載します(本紙4月8日号に掲載)。
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「私には夢がある」の演説で知られるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King, Jr.)牧師の死から50年を迎えた。キング牧師は1968年4月4日米国テネシー州メンフィスで凶弾に倒れた。非暴力、公民権運動の働きは、米国のみならず全世界にも影響を与えてきた。彼の生きた時代と彼の働きは現代にどのような意味を持つか。教会、次世代、ゴスペルの視点で3人に寄稿してもらった。
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Mahalia_Jackson_1962,_van_Vechten,_LC-USZ62-91314
キング牧師の物語を、映画史上初めて長編映画として描き上げ、日本でも公開された「グローリー/明日への行進」の中にこんなシーンがありました。

 前年にノーベル平和賞を受賞したキング牧師をリーダーとして、人々は、1965年にアラバマ州セルマの地で黒人の選挙権を求め平和的なデモ行進を計画します。

 しかし、政府やFBIによる妨害、白人至上主義者による家族の殺害予告の電話、妻や娘たちにも迷惑をかけていることをわかっていたキング牧師は、多くの苦悩や葛藤を抱えた真夜中に一人のゴスペルシンガーに電話をします。そして、彼女に一つのゴスペル曲を歌ってくれないかと頼みます。

 このシンガーは世界で最も有名なゴスペルシンガー、マヘリア・ジャクソンであり、彼女は迷うことなくベッドから起き上がり、真夜中に「Take My Hand Precious Lord」を受話器に向かって歌いました。

〈尊き主よ 私の手をとってください 私を導き私を立たせてください 私は疲れ 弱り 一人きりです 嵐を超え 夜を越え 光へと私を導いてください 私の手をとってください 尊き主よ 私をあなたの御もとへと導いてください〉

 私もゴスペルシンガーの一人として、人生の苦悩の中で神への賛美がどれほど力を与えてくれるかを体験させられてきましたが、このシーンを観た時、キング牧師がマヘリアのゴスペルを通してどれほど慰められ、力を受けたことかと思いました。

 公民権運動のリーダーであり、一人の夫であり父親でもあったキング牧師の苦悩は誰にもわかってもらえないものであり、その孤独感は底知れないものであったでしょう。まさに、この「Precious Lord」の歌詞の通り、賛美を通して主ご自身が近づいてくださることを、決して一人ではないことを、彼は体験させられていたのだと思います。

 かつて奴隷であったアフリカ系アメリカ人たちにとってゴスペルミュージックがただの文化ではなく、死と命の間で神へと手を伸ばす、叫びであり、解放であり、生き様であり、礼拝であったように、キング牧師にとっても、ゴスペルは彼を孤独から引き上げ、力を与え、慰めを受ける、神からのプレゼントだったのだと思います。

 63年に行われたワシントン大行進におけるキング牧師の有名なスピーチ「I have a dream」においても、マヘリア・ジャクソンは彼を励ましたと言います。スピーチの前半は周到に練られた内容で、キング牧師も原稿を見ながら語っていましたが、スピーチの中頃に、そばにいたマヘリアがこう叫んだというのです。「マーティン、彼らに夢を語って、夢を語るのよ!」そのマヘリアの言葉に反応したキング牧師は、まるで黒人教会の講壇で牧師たちが聖霊に導かれるままに自由に語るように、フリースタイルで語り始めたと言います。そこからスピーチに力強さが生まれ、聴衆も大いに反応し始めました。

 キング牧師が言い残した、「自分の葬式ではマヘリアに『Precious Lord』を歌って欲しい」との言葉に、彼がどれほどゴスペルに励まされてきたかが現れていると思います。私たちも賛美の中でただ主と出会い励ましを受けていきたいと思います。
塩谷達也(ゴスペル・シンガー)
写真=マヘリア・ジャクソン Wikimedia Com mons

★明日は東京バプテスト教会牧師の渡辺聡さんの寄稿です。

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