4月4日キング牧師没後50年にちなみ、3日にわたり3者の寄稿をオンラインで掲載します(本紙4月8日号に掲載)。

〈昨日は〉
キング牧師没後50年①:キング牧師の“孤独”を慰めたゴスペル 塩谷達也(ゴスペル・シンガー)2018年4月2日
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Martin_Luther_King_-_March_on_Washington1963

 「予言者」と「預言者」の違いをご存知だろうか?

 「予言者」は未来の事を予め語る人のこと(1999年に世界が終わると予言した「ノストラダムスの大予言」がいい例だ。当たらなかったけれど)。それに対して「預言者」の「預」は銀行預金の「預」であり、預かること。つまり聖書的な意味で言えば、神の言葉を預かっている人のことだ。

 米ケンタッキー州ルイビルの南部バプテスト神学校で旧約学を学んでいた時、教授から、「今日の社会で旧約聖書の預言者に相当する人物は誰だと思うか?」と質問された。先生の答えは、マーティン・ルーサー・キング牧師だった。神の言葉を預かり、いったん預かったならば、たとえそれが社会の風潮と相容れなくても、恐れることなく公衆の前ではっきりと語ることができる人。そのようなイメージが、60年代の公民権運動のリーダーの一人として、黒人差別が吹き荒れるアメリカ社会の中で、ひるむことなく神の前のすべての人の平等を訴え続けたキング牧師に重なる。

 しかし教会のキング牧師に対する評価には、否定的なものが多かった。座り込みや行進などの示威行動が、公権力との間に緊張を引き起こすとして批判された。また、クリスチャンであるならば、権威に従い、法をするべきであるという意見もあった。キング牧師は、同僚の牧師たちからのそのような批判に絶えずさらされていたのである。

 それに対し、キング牧師が同僚たちに書き送った『バーミングハム獄中からの手紙』(1963年4月16日)という書簡が残されている。彼は、非暴力キャンペーンにはきちんとした手続きがあると述べている。

 第1に不正義の存在をきちんと実証すること、第2に(権力者との)交渉、第3に自己浄化(非暴力についての度重なるワークショップを行ったり、単なる仕返しをするのではないということを確認し合ったり、刑務所に入れられるという厳しい状況に耐えることができるかなどを自己吟味すること)、第4に直接行動、という手順である。

 実際のところ、当時の社会に不正義が存在しているということは明白であった。長年にわたり黒人に対するヘイト活動やリンチが横行しているにもかかわらず、行政はそれを見過ごしていた。

 キング牧師は、特権階級が自分たちの特権を自発的に放棄することはないという歴史的事実をはっきりと知っていた。したがって、抑圧し続ける特権階級と話し合いをするためには非暴力による実力行使によって摩擦を起こすことが必要不可欠だったのである。

 さらにキング牧師は、法には正義の法と不正義の法という2種類あるということを明らかにしている。人間の人格を高める法は正義の法であり、人間の人格をおとしめる法は不正義の法である。歴史の中には時として不正義の法が合法で、正義の法が非合法というようなことも起こる(かつてドイツではヒトラーが行った悪事のすべては合法であった)。したがって、クリスチャンは旧約聖書のシャデラク、メシャク、アベデ・ネゴが、王の作った悪法に立ち向かったように、不正義の法と戦わなければならないのである。

 最後に、キング牧師はそのような状況の中にあっても、決して声を上げようとせず、ただ傍観しているだけの教会に対して失望と悲しみを述べている。彼は、以前南部を旅した時、教会堂の美しい塔や素晴らしい神学校の建物を目の当たりにした。その時彼は「ここで礼拝をしている人たちはどんな人たちなんだろう?」、「彼らの神は誰なんだろう?」、「知事たちが傍若無人に振る舞う時、どこで彼らは声を上げるんだろう?」と自問したという。

 「その神学校というのは僕たちが学んでいるこの神学校のことだよ」と、クラスの誰かが私の耳元でささやいたのを、今でも覚えている。

写真=「私には夢がある」と語った1963年ワシントン大行進時のキング牧師 Wikimedia Commons
★明日はキリスト者学生会主事、塚本良樹さんの寄稿です。

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