この世界で働くということ

 近頃、クリスチャンがこの世界で担う仕事の意義を、神学的にきちんと位置付けようとする本の出版が続いている。喜ばしいことだと思っている。異教社会で生きる日本のクリスチャンが、「救いの喜び」だけでなく、「救われた後」を喜んで生きるために、このテーマをわきまえることは必要不可欠であるからだ。

 原題は「Every Good Endeavor − Connecting Your Work to God’s Work」。これを日本の状況に持ってくれば、正に本書の題通り『この世界で働くということ』を聖書的に考えることであり、サブタイトルの通り「仕事を通して神と人に仕える」という納得と情熱を持って、福音の喜びに満ちた信仰生活を生きることにつながるのである。

 本書は、仕事の証しや説教や体験談ではない。神学的に「働く」ことの全体像を分からせてくれる本である。内容は3部構成になっている。第1部「仕事に対する神の計画」、第2部「仕事が抱える問題」、第3部「福音と仕事」。この3部がそれぞれ創造、堕罪、回復に対応している。組織神学の枠組みをきちんと踏まえつつ、そして参照すべき思想家や文学者に触れつつ、聖書そのものを丁寧に取り上げている。395頁のボリュームは知りたいことを網羅しており、またこの世の各分野に触れていて(例えば第9章では、ビジネス、ジャーナリズム、高等教育、芸術、医療に触れる)、信徒が自分の置かれた場に当てはめて考える手がかりを十分に与えてくれる。213項目ある注も、有用な内容である。

 今から約30年前、私は神学校の卒業論文を「労働の意義」というタイトルで書いた。牧師への召命に応える前の8年間のサラリーマン生活の意味を自分なりに整理し、日本のクリスチャンが教職も信徒も、教会と社会全体を視野に生きることを得させる「キリスト教世界観」をまとめようとした。本書は、あの時自分が書きたかったことを見事にまとめて提示してくれていてうれしい読後感を得た。日本のクリスチャンの必読書として紹介したい。

評・廣瀬薫=東京キリスト教学園理事長

『この世界で働くということ』

ティモシー・ケラー著 廣橋麻子訳

 いのちのことば社 四六判 2,160円税込

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