2018年07月29日号 01面

 東日本大震災、福島第一原発事故から7年が過ぎたが、放射能汚染問題、廃炉作業の解決への道のりは長い。その中でキリスト教会はどのような宣教をしていくか。信州夏期宣教講座は「エクステンションinいわき」を7月16日に福島県いわき市の新よね旅館で開催した。日本同盟基督教団勿来キリスト福音教会牧師の住吉英治氏は発題1「宣教と原発爆発事故・放射能汚染問題」を、福島第一原発の建設稼働時期から原発問題に関わっていた双葉地方原発反対同盟責任者の石丸小四郎氏が発題2「原発事故は何をもたらしたのか」を語った。

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写真=富岡町の教会拠点を目指し修復される家屋

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写真=広間や様々な部屋がある

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写真=水田跡の向こうに廃棄物焼却場

 集会当日午前中にはオプションツアーとして国道6号線を北上し、双葉郡富岡町までを視察。沿線には、廃炉関係作業員らのための新築のホテル、コンビニ、ガソリンスタンドが立ち並ぶ。北上するにつれ、水田は姿を消し、不耕作地が目立った。

 富岡町は一部で避難区域が解除されている.JR常磐線は上り方面から富岡駅までが開通し、津波で流された駅舎は新築移転した。駅から丘に上がった住宅街に、新よね旅館主人で、同盟基督・いわき教会信徒の鈴木國友氏の持ち家がある。現在、鈴木氏、住吉氏や協力者の手で、地域支援、教会形成の拠点「双葉希望キリスト教会」(仮)設立を目指し、整備中だ。

   住吉氏は「原発事故後、双葉郡から教会が無くなった。お寺は帰還者のための心のより所をつくろうと奔走しているという。キリスト者としても、信仰に基づいて心のより所をつくる使命がある」と話す。

 二間続きの居室をはじめ2階建てで部屋数は豊富。「一時帰宅者のための宿泊所としても用いることができる。いわきの復興住宅にいる双葉郡からの避難者との架け橋にもなれる。実際にニーズはある」と期待する。

 支援で知り合った避難者が近隣の楢葉町で家屋を修復している。カトリックの修道院が設立されシスターらが支援活動をしている。これらの人々とも協力して地域の人々のための集会などを開く可能性も模索している。

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 午後の集会では市内外の教会関係者ほか、住吉氏が支援で知り合った双葉郡出身の避難者や日頃かかわる地域の9条の会関係者らが集った。

 発題で住吉氏は「まず地域の人々と喜び、苦しみを共にする中で、生き方を示し、福音を伝えていけると思う」と述べた。

 「原発の導入には、地域の貧しさという生活の問題があった」と言う。「『原発は神の御心ではない』と神学的に論じられるが、それだけでは現地で生活する人にとって意味をもたない。生活のために廃炉関係の作業員となっている若者が身近にいる。私は原発には反対だ。だが結論ありきではなく、原発賛成反対を超えて対話し、原発導入の歴史、人々の思いを受け止めて、今とこれからの原発問題を考えていかないといけません」

   「原発問題には、十戒の『むさぼるなかれ』の問題がある」と指摘。「もっと生活をよくしたいという思いが地域にはあった。しかし原発があったからといって幸せではなかった。今後原発が無い中で、心の豊かさ、生活の豊かさを提示していく課題が教会にはある。信条、信仰が違う人とも、教会が、一緒にできる分野は多くあるだろう。さらにキリスト者としては希望は天国にある。それが地上の苦しみを乗り越える力になると示したい」と話した。

 日頃、東電などとも交渉を続ける石丸さんは発題2で公的資料や報道資料を精査しつつ、現在も増え続ける放射性物質や汚染水、原発内の状況について解説した。

 汚染水は1日約200トン発生し、降雨時にはさらに増える。汚染水はタンクにため続けている。汚染水を浄化するための多核種除去設備(ALPS)7系統から放射性汚染物が発生する問題、使用済み燃料、燃料デブリ、原発から発生するがれきなどの問題、汚染水タンクからエックス線が漏れスカイシャイン現象が発生したがあまり報道されなかった問題、3月に日本原子力学会で発表された「第一原発から1日約20億ベクレルの放射性物質が流出している」という調査結果や汚染水の海洋流出の問題も述べた。

   「汚染水はなぜ止まらないか」と問う中で、「原発建設から事故対応、廃炉処理にいたるまで共通して自然の力を軽視していた」と指摘。「河川が幾筋もあり、山側から流れる地下水が豊富。原発立地場所は建設前から『泥田』とも言われていました」。近年最大の争点は、汚染水処理後のトリチウム水の海洋放出問題。「これをやられたら漁業は壊滅的な被害を受ける」と危機感を露わにした。

 質疑応答では廃炉作業員の過酷な状況、それにより熟練工が育たないという課題、避難指示区域が解除され、帰還が促されているが、ストロンチウムなど放射性物質の測定の不徹底などを指摘し、帰還を危険視した。石丸氏は最後に、自身が尊敬するキング牧師にも触れて、キリスト者への期待も表した。