2018 年8 月8 日
三重県知事 鈴木英敬 様
三重県 戦略企画部長 西城昭二 様
〒151-0072 東京都渋谷区幡ヶ谷1−23−14
日本同盟基督教団「教会と国家」委員会
委員長 柴田智悦

 三重県派遣の子ども代表団の靖国神社参拝に抗議し、今後の靖国神社への参拝取りやめを求める声明

 私ども日本同盟基督教団「教会と国家」委員会は、三重県が、毎年8 月15 日の全国戦没者追悼式に県の代表として派遣する子ども代表団の行程表に靖国参拝が組み込まれ、追悼出席に合わせ靖国神社を参拝していることに対して強く抗議し、今後派遣される子ども代表団に対し、靖国神社参拝を行程に含めないことを要望いたします。
1)抗議の対象とする事実
三重県では、毎年8 月15 日に東京・日本武道館で開かれる全国戦没者追悼式に、2015 年より県代表として子ども代表団を派遣していますが、子ども代表団の行程表には靖国参拝が組み込まれ、追悼式出席に合わせ靖国神社を参拝していました。
2) 抗議の理由
(1) 政教分離原則(日本国憲法20条3項)違反
まず、報道によれば、三重県が全国戦没者追悼式に派遣する子ども代表団は、県主催の平和の集いにおいて知事から委嘱状を手渡され、その旅費には国が追悼式参加者に支出する補助金が充てられています。さらに、子ども代表団は遺族会のバスに便乗し、県職員も随行する中、靖国神社に赴き、遺族会や子ども代表団の保護者と一緒に参拝しています。公費を使った派遣団が靖国神社に参拝すること自体、憲法第20 条3項の「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」、および第89 条の「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」に違反しています。また、子ども代表団が靖国神社を参拝していたことは、2018 年6 月19 日の戦略企画雇用経済常任委員会における、日本共産党の岡野恵美県議の質疑で明らかになり、同月26 日中日新聞朝刊で報道されるまで、公に知られることもありませんでした。市民に知られないまま、日本国憲法の政教分離原則に違反する行為が行われていました。
(2) 思想、良心、信教の自由の侵害
次に、子ども代表団が遺族会のバスに便乗してその行程に含まれている靖国神社に赴き、遺族会メンバーや県職員と行動をともにする時に、「参拝は自由行動」と言われましても、小学生から高校生の子どもたちが、その場で自らの意見を表明することは非常に困難だと思われます。それは、まさに無言の圧力であり、憲法第19 条の「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」、また、第20 条2項の「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない」に違反しています。2018 年6 月19 日の戦略企画雇用経済常任委員会における、草の根運動いがの稲森稔尚県議による、三重県としての歴史認識に対する質問に対して、「『靖国参拝は自由行動』と行程表に明記している」との回答がなされましたが、行程表に上記記載が存在したとしても、上述のとおり子ども代表団の子どもがその場で自らの意思を表明することが非常に困難であることに変わりはありません。
(3) 軍国主義復活の恐れ
かつて日本は、アジア諸国を侵略し、植民地支配を行い、国内外の多くの尊い命と尊厳を蹂躙しました。そして、靖国神社併設の遊就館入り口近くに据えられている特攻兵士の像のように、将来ある若者を戦場に送り、その多くの命を無残にも散らせてしまいました。その、日本における軍国主義の精神的支柱として戦争を支える役割を担ったのが靖国神社だったのです。そして、敗戦を機にこの国が新たな出発をする際、アジア諸国に対する侵略戦争への反省から、戦争を永久に放棄し、戦力を保持せず、交戦権も否認した憲法第9 条を定め、その戦争へと国民を導いた国家神道体制への反省から、個人の信教の自由を保障し、国及びその機関による宗教活動を禁止した憲法第20 条を定めたのです。しかしながら、靖国神社は、過去に日本が犯した侵略戦争を「アジア解放の戦い」「自存自衛の正義の戦い」と美化しています。そのような、かつての侵略戦争を正当化している靖国神社に子どもたちを率いて参拝させることは、再び若い命を戦場に送る準備とも捉えられかねません。また、三重県は子ども代表団を派遣する理由として、「未来を担う若い世代に平和の尊さや大切さを伝えるため」としており、三重県戦略企画部は、「靖国神社の戦争に対する考えを県が支持し、子どもたちに伝えるということは全くない」と説明していますが、子ども代表団の靖国神社参拝は予め行程に入っており、同常任委員会で稲森稔尚県議が語っているように、「第二次世界大戦を正当化」し、「政府見解と異なる」主張をしている靖国神社に子どもたちを参拝させることは、「子どもたちに誤ったメッセージを送ることに」なります。
(4) 私たちの信仰の自由が奪われる危険性
かつて1933 年、美濃ミッションに属する教会学校の生徒たちが伊勢神宮参拝を拒んだ際、新聞で大々的に報道され、他のキリスト教会も加担する全国的な排斥運動となって、美濃ミッションを迫害しました。また、戦時中、美濃ミッションの牧師たちは治安維持法違反で投獄されました。私たち日本同盟基督教団は、戦後、戦争協力と偶像礼拝をした罪を悔い改め、聖書に記されている神、天地の創造主であられ、人として現れたイエス・キリストのみを唯一の神として礼拝し、それ以外のものを礼拝することは偶像礼拝になるので受け入れないことを表明してきました。しかしながら、今回のような子どもたちに対する靖国神社参拝が当然のように行われるならば、自民党の日本国憲法改正草案にあるように、再び神社を「社会的儀礼又は習俗的行為」として参拝が強要される事態になることを懸念します。それは、戦前、戦中の神社非宗教論にも通じる考え方ですが、いかに神社参拝を社会的儀礼だと言ったとしても、私たち特定の信仰を持つ者にとりまして、それは明らかに宗教行為であり、私たちの信仰の自由を奪うことであり、とうてい容認することはできません。
3)結論
以上の理由から私ども日本同盟基督教団「教会と国家」委員会は、三重県が毎年8 月15 日の全国戦没者追悼式に県の代表として派遣する子ども代表団が行ってきた靖国神社参拝に強く抗議し、今後は靖国神社参拝を行程に含めないことを要望いたします。
「あなたには、わたし以外に、ほかの神があってはならない。あなたは自分のために偶像を造ってはならない。上の天にあるものでも、下の地にあるものでも、地の下の水の中にあるものでも、いかなる形をも造ってはならない。それらを拝んではならない。それらに仕えてはならない。」(出エジプト記20:3〜5)