プロフィール:アブデラマン・シサコ監督 1961年、モーリタニア生まれ。幼少期にマリに住み、21歳からはモスクワ映画学院で学ぶ。現在はフランスを拠点に活動。本作は昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され大きな感動を呼んだ。ベルリン国際映画祭などの国際映画祭で審査員を務め、今年のカンヌ国際映画祭ではシネフォンダシヨンと短編部門の審査委員長を務める。
プロフィール:アブデラマン・シサコ監督
1961年、モーリタニア生まれ。幼少期にマリに住み、21歳からはモスクワ映画学院で学ぶ。現在はフランスを拠点に活動。本作は昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映され大きな感動を呼んだ。ベルリン国際映画祭などの国際映画祭で審査員を務め、今年のカンヌ国際映画祭ではシネフォンダシヨンと短編部門の審査委員長を務める。

信仰は、愛であり、受け入れることであり、分かち合うこと

フランスの映画祭として最も評価の高いセザール賞。今年の2月に開催された第40回授賞式では、10部門にノミネートされていたアブデラマン・シサコ監督の「ティンブクトゥ」(仮題)が主要7部門のグランプリを獲得した。西アフリカ・マリ共和国の古都ティンブクトゥは、ニジェール川の中流域に実在するトゥアレグ族の古都。2012年にイスラム原理主義過激派武装集団がこの古都を占拠し、若いカップルを石打ちの刑で処刑した事件にインスパイアされて撮られた作品。映像美だけでなく、暴力による偏狭な教えの強要と圧政に苦しむ現代の情況描いた作品としてカンヌ国際映画祭ではエキュメニカル賞受賞など注目度も高まっている。都内で6月26日から29日まで開催されたフラン映画祭2015では「ティンブクトゥ」(仮題)で上映、映画祭に際して来日したシサコ監督に話しを聞いた。

(映画の紹介記事は⇒ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=2381

ティンブクトゥ近くの川沿いにテントを張り、牛の放牧を生業に妻と娘と音楽を愛するキダーンの家族。両親を亡くした少年を引き取って慈しみ牛の世話を任せている。だがある日、漁師の網を牛が荒らしたことからその牛は漁師に殺されるトラブルが起きた…。

モチーフになった家族の物語を中核に据えながらも、武装集団に制圧された町の人たちの圧迫感のある暮らしとささやかな抵抗が描かれている。暴力や処刑のリアルなシーンは少なく、人間の心の揺れ動きを奥深く見つめ描写していく。ある意味、ドキュメンタリーを人間観察ドラマのように描いた理由を「人間性を深く描写しないと、自分自身の人間性を失ってしまうと思うからです」とシサコ監督はいう。魚売りの女性が、女性は手袋をしろという不可思議な戒律に思わず腹を立てる。サッカーを禁止された少年たちが、ボールの無いエアーサッカーに興じる。モスクに乱入しジハード(聖戦)を建てに退去しろと命じる武装派兵士に、保守的なイスラム教の導師は「私たちもジハードを闘っている。それは頭脳と心とでの戦いだ」とコーランの教えを説く。シサコ監督は、「暴力で押しつけられても、人間はそれぞれのやり方で抵抗しています。決して屈したままではいない。その姿を描きたかった」とも語る。

「人間には、何かが起きても乗り越えようとする何かがあると思う。苦痛の中にあっても希望を見いだそうとします。その希望とか光は、普通の人々の内側から出てくるものだと思います。ですから、残酷なシーンだけを描くのではなく、残酷な行為をするその人が生きてきた断片からでも、その人の人間性が伝わるように描きたいと思っています」。隣りモーリタニア生まれでフランス在住のシサコ監督は、自身もイスラム信徒だが、「9・11以降、少数の過激な武装集団によって(コーランの教えとは)ほど遠い考え方を押し付けられているイスラム信徒が大きな被害を受けています。私たちにとって信仰というものは、愛であり、受け入れることであり、分かち合うことです。それらはどのような宗教でも信仰でも共通に理解し合えることだろうと思いますし、人間としてもっとも守るべきことであろうと思います」という。

(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision
(C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

邦題はまだ決定されていないが、原題は「ティンブクトゥ」。フランス語では“トンブクゥ”と呼称されるが、「現地ではティンブクトゥと呼称されることが多いです。この物語が、フランス人と深い関係のあるアフリカの町に起きたことだけに限定されたくありません。もっとインターナショナルな意味を持って理解してほしいと思います。ある町が外部から来て武力で制圧し独自の考え方で征圧されていく物語と考えていただきたいと思います」。

武力であれ、数の力であれ、他者の考え方を認めず意見にも傾聴しようとしない制し方は、民主主義の国でも起こり得るかもしれない。そのような情況でも、判断する観察眼をもって。自らに出来得る抵抗で屈することなく暮らせるだろうか。この作品は、どこの国に生きていても静かに人間の尊厳と希望を持ち続ける勇気を指し示している。 【遠山清一

監督:アブデラマン・シサコ 2014年/フランス=モーリタニア/97分/原題:Timbuktu 配給:RESPECT(レスペ)、配給協力:太秦 2015年6月28日にフランス映画祭2015上映作品。 正式な邦題は「禁じられた歌声 Timbuktu」に決定、2015年12月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://unifrance.jp/festival/2015/films/film09/

2015年第40回セザール賞最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀オリジナルシナリオ賞・最優秀モンタージュ賞・最優秀音楽賞・最優秀フォトグラフィー賞・最優秀録音賞の7部門受賞作品。第87回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。2014年第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。