小柄なアスラン少年は疎外されることもよくある (C)Yorgos Mavropsaridis
小柄なアスラン少年は疎外されることもよくある (C)Yorgos Mavropsaridis

動物同士を戦わせる闘犬、闘鶏は日本やアジアでも古くからある興行。死に至る残忍さから現代では法的に統制されているが、法の網目をくぐってでも格闘を賭け事にして闘争心を駆り立てるのは人間の悲しい性(さが)なのか。荒涼とした原野に閉ざされた封建的な気風のなかで、試合に敗れて捨てられた闘犬シーヴァスを自分の飼い犬にして立ち向かう心を育んでいく少年アスランの物語。

トルコ東部アナトリア地方にある小さな村。小学生のアスラン(ドアン・イズジ)は11歳だが、クラスの中でも小柄なため何かとのけ者扱いされる。それでも、負けん気は強い。子どもの日に上演する劇「白雪姫」の衣装が学校に届いた。白雪姫にはクラスの美少女アイシェ(エズジ・エルギン)が演じるだろうと誰もが思っている。アスランの夢は白雪姫の相手役の王子を演じること。ところが、担任教師は当然の様に村長(ムッタリップ・ミュジデジ)の息子オスマン(フルカン・ウヤル)を王子役に割り振った。しかも、それが当たり前であるかのようなクラスの雰囲気にも腹が立つ。王子役をあきらめきれないアスランだが、アイシェも担任教師も取り合ってくれない。

村に闘犬の一団がやって来た。興行場所のケピルの丘で、闘犬のシーヴァスとオスマンの飼い犬ボゾの一騎打ちが始まったが、闘いはボゾが勝利し、血だらけになって横たわるシーヴァスを置き去りにして集まった人たちは立ち去った。アスランが見守っていると、しばらくして大きな木の下までよろけながら歩いて行き躰を休めるように伏したシーヴァス。帰りが遅いのを心配して迎えに来た兄に、アスランはシーヴァスを自分の飼い犬にすることを了解してもらう。

傷が癒えたシーヴァスは再びボズと対決する (C)Yorgos Mavropsaridis
傷が癒えたシーヴァスは再びボズと対決する (C)Yorgos Mavropsaridis

「白雪姫」の劇の準備が進むことに気が進まないアスランは、学校には行かずシーヴァスの面倒を看る。シーヴァスは傷が癒え、体力も回復しみるみるたくましくなっていく。アスランは、下校時になるとシーヴァスを学校に連れていきクラスメイトらに自慢気に見せるようになる。闘犬としてではなく番犬として飼っていたアスランだが、オスマンの飼い犬ボゾと決闘することになった。子どもたちが見守る中、シーヴァスは圧倒的な力でボゾを負かしてしまう。その噂は、すぐに広まった。以前、シーヴァスがボゾに負けたときに「闘犬はペットにはなれない」とアスランに忠告した村長はじめ村人たちがシーヴァスの強さを認め始めた。闘犬として売られてしまうのではないかと疑念を抱いたアスランは、父や兄たちに「シーヴァスは渡さない!」と必死に立ちはだかる。

少年と犬の物語にありがちなロマンチックな展開はない。男社会の古い気風が息づく村社会の中で、ケンカに負け、いいように弄られてきたアスラン。旅回りの闘犬として闘い続け、敗戦で生き絶え絶えになって捨て去られたシーヴァス。群れから弾かれているような少年と闘犬の間には、ある種の心通じ合うものがあるのだろう。闘犬として戦い続けるシーヴァスに、安息はない。シーヴァスの強さに惹かれ、多くのことを学び始めたアスランだが、村で生きてきた少年がシーヴァスに与えることができるものはあるのだろうか。生きることにかかわることの尊厳さと怖れを少年の力強い眼光に感じさせられる。 【遠山清一】

監督:カーン・ミュデジ 2014年/トルコ=ドイツ/97分/原題:Sivas 配給:ヘブンキャンウエイト 2015年10月24日(土)よりユーロスペースほか全国縦断ロードショー。
公式サイト http://sivas.jp
Facebook  https://www.facebook.com/sivasmovie

2014年第71回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・金のビサト賞受賞作品。アジアパシフィックスクリーンアワードベストユスフィーチャーフィルム賞受賞。第27回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門特別招待上映作品(上映時タイトル:闘犬シーヴァス)。