「誤った裁判を闇に葬らせたくない」と語る齊藤潤一プロデューサー
「誤った裁判を闇に葬らせたくない」と語る齊藤潤一プロデューサー

1961年(昭和36)に、村の懇親会でぶどう酒を飲み5人の女性が死亡した三重県「名張ぶどう酒事件」の奥西勝死刑囚(享年89歳)。66年(昭和41)に静岡県清水市(当時)の味噌工場で一家4人の焼死体が見つかった「袴田事件」の袴田巌死刑囚(79歳)。いずれの事件も証拠品の実証性は低く、自白を拠り所とした死刑判決が確定。だが、2人の死刑囚は、公判当初から無実を叫び続け再審請求を繰り返し提出してきた。2人の無実を確信し、支え続けてきたそれぞれの家族と弁護団の活動をとおして浮かび上がる現代の裁判と再審制度の闇の部分を追及するドキュメンタリー映画「ふたりの死刑囚 再審への扉--。いまだ、開かれず」(鎌田麗香監督、配給:東海テレビ放送)が1月16日より公開される。本作のプロデューサー・齊藤潤一(東海テレビ放送報道局報道部長)さんに、その制作について話を聞いた。 【遠山清一】

↓↓↓映画「ふたりの死刑囚 再審への扉--。いまだ、開かれず」レビュー記事↓↓↓
https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=7155

東海テレビ放送では、「名張ぶどう酒事件」の冤罪疑惑を28年前から追い続けている。齊藤さん自身、12年前にこの事件の担当を先輩から引き継ぎ、これまでに5本の番組を制作してきた。5作目の「約束~名張ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」は、奥西死刑囚役に仲代達矢、母親タツノ役に樹木希林、ナレーターに寺島しのぶを配して心理ドラマとドキュメンタリーを融合した作品をドキュメンタリー劇場シリーズとして劇場公開し、テレビ番組も劇場映画も好評を得た。自ら管理職になると後進の鎌田麗香ディレクターに本作の監督を任せた。長年「名張ぶどう酒事件」をテーマに作品制作へ駆り立てるものは何なのだろうか。
「当初は、先輩から重たいテーマを引き継いでしまったなぁ、という思いは正直ありました。でも、一審では無罪判決だったのが二審で死刑判決になった事件はほかにないんですね。判決文を読み、周辺を追跡取材していくごとにこの裁判の矛盾がいろいろ出て来て、知ってしまいましたので、これはもう、伝え続けるしかないという思いで追ってきました」。

(C)東海テレビ放送
(C)東海テレビ放送

本作も番組制作の本線は「名張ぶどう酒事件」だったが、事件の経緯と弁護団による再審請求の努力などほとんどの素材は使い切っている。この種のドキュメンタリーでは収監されている確定死刑囚を直接取材することは不可能。だが、14年4月に袴田死刑囚が釈放されたことから、鎌田ディレクターが袴田死刑囚と姉・秀子さんを取材し、2人の人柄とともに2つの事件を対比しながら現在の裁判制度、再審制度の問題を衝くドキュメンタリーに仕上がった。

15年10月4日、奥西勝死刑囚が八王子医療刑務所で死去した。89歳だった。「東海地域では号外が出されました。だが、東京ではあまり大きくは報道されなかったようですし、事件についてもほとんど知られていないですね。それだけに、本作を見て、知っていただきたいし、語り部の様に、これからも伝え続けたい」。

本作では、やはり冤罪事件として知られる「帝銀事件」の平沢貞通死刑囚と、彼の養子・武彦さんが平沢死刑囚の病没後も再審請求を行なった事例や、奥西死刑囚の弁護団が若手弁護士らと事件の検証学習を続け再審請求の継承していく姿勢を取材している。「袴田さんご姉弟はご高齢ですし、奥西さんは亡くなられた。平沢武彦さんは13年に54歳で亡くなられ、再審請求の継承者はいなくなりました。そのようにして、事件が闇に葬られるままにはしたくない」と語る齊藤さん。このドキュメンタリーは、長年事件を検証し、番組を制作してきた報道メディアと引き継いできた取材者たちの“確信”と“覚悟”から生み出された。

監督:鎌田麗香 2015年/日本/85分/ドキュメンタリー 配給:東海テレビ、配給協力:東風 2016年1月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.futarinoshikeisyu.jp
Facebook https://www.facebook.com/tokaidoc.movie