「新しい資本主義の考え方を持たないと、悲しませる経営がはびこってしまうということを、経済学を学んできて感じていました。私はどこかでBコーポレーションみたいなものを求めていたのです」。そう語るのは、経済学を専門に研究してきた山崎正人さんだ。山崎さんは、アメリカで始まったBコーポレーションという新しい企業活動を日本に広めることを目指す。環境破壊、従業員の搾取はお構いなく利潤のみ追求するAプランでなく、地域・社会、環境、従業員の幸せをも配慮したBプランによる企業活動だ。今年、群馬県桐生市にもBコーポレーションを目指す企業が起こり、そのお手伝いをしている。「日本の企業も後ろのものを断ち切り、新しく生まれ変わらなければなりません」と山崎さんは語る。 【中田 朗】

経済を学ぶうちに世界の
格差が見えて来た

「Bコーポレーションの考え方を最初に言ったのが、経済学者のサミュエルソン。彼はGDP(国内総生産)から環境破壊を引いたもの(Net economic welfare=NEW) が本当の成長だと語った。Bコーポレーションは損益計算の中に社会的責任コスト、環境への責任コストを全部載せたもので、厳しい認定制度により、環境によくないもの、地域に悪影響を及ぼしているもの、従業員の搾取などを全部洗い出し、利潤から引く。利潤が下がるのは面白くないので、さらに社会貢献、環境にいいものづくりを目指す。明らかに、商品の品質は向上し、従業員満足も向上します」山崎正人2
現在、世界に千400ほどのBコーポレーションがあるが、「有能な働き人が集まるなど、雇用の面でいい循環が起きている。イノベーションも起きています」と山崎さんは語る。では、経済学者の山崎さんはなぜ、Bコーポレーションに注目をしたのだろうか?
若い頃から、環境問題に関心があったという。「70年代に海洋汚染、水俣病など公害問題があった。国連の第一回目の環境会議の時、水俣病の患者が生き証人として証言していた。私も大学を卒業してから、国連で仕事をする機会がないかと考えていたのです」
国連で仕事をするには大学卒では難しいということで、慶應大学を卒業後、アメリカに留学し、国際関係論の特化した大学院のフレッチャースクールで学んだ。在学中、国連に行って日本代表の人に「就職したい」と話をしたが、「日本から来る人には給料が安くて話にならない。止めたほうがいい」と言われた。フレッチャーの卒業生は、ほとんど世界銀行に就職するか大使になる人が多かった。だが、「世界銀行に行くにも、もう少し経済学を学んだほうがいい」と思った山崎さんは、今度はデューク大学で学び、経済学の博士号を取得。「大学院に行くと、完全に学問的で、もっと自分の研究をして、物を書いて、というふうになり、国連が遠のいてしまった」と言う。
博士論文のテーマは「日本の経済発展が、韓国経済の発展に役立つ」だった。「韓国は日本に最も文化の近い国。韓国が日本の経済から学んだら、韓国経済は必ず成長するはずだ、と。それが見事に的中したのです」
また、経済発展論を学ぶうち、植民地政策や先進国の搾取など、世界中の格差が見えて来た。「利潤の追求はコストの最小化だ。でもそれが本当に正しいものなのか? 企業を何とかしないと、環境問題はなくならないのではないか」と、そう考えるようになった。そんな時、Bコーポレーションのことを知った。

企業が起こすあらゆる
問題がなくなっていく

山崎さんは、生まれてすぐに幼児洗礼を受け、小さい頃から東京・文京区の日基教団・弓町本郷教会で育った。祖父は、小林商店(後のライオン株式会社)で丁稚奉公をし、後に創業者でクリスチャンの小林富次郎と、ライオン株式会社を共同経営する山崎麻吉だ。麻吉はライオンのハミガキ、ハブラシを全部企画した人物。「ハブラシに豚毛を使ったのが祖父。『ライオン こどもハミガキ』を作ったのも祖父で、開発したバナナ味、イチゴ味を持って帰っては、最初に試されたのが私でした」。山崎さん自身もまた、祖父・麻吉のDNAを受け継いでいるようだ。山崎VS小沢
Bコーポレーションは、企業が起こすあらゆる問題を解決するという。「企業活動が環境にいいか、従業員に優しいか、地域社会に貢献しているか、自らチェックするので、国の行政指導もなくなってくる。自らの過ちを自ら改善していくという姿勢がある。Bコーポレーションの企業が増えれば、いろんな問題がなくなっていくのです」。そのためには、「過去を断ち切り、企業が生まれ変わる必要がある」とも強調する。「キリスト教の考え方と同じです。生まれ変わってBコーポレーションに専念する。そして一つの証しをみんなに見せる。そうやって広がっていくのです」
今年、絹の産地として知られる群馬県桐生市にある株式会社シルクウェーブ産業(小澤康男代表取締役社長)が、Bコーポレーションの考え方に賛同し、日本初のBコーポレーションを目指している。「みんなが本当にそうなったらいいな、と思うだけでも世の中変わる。これに夢をかけている。もし認定を受けたら、地元の会社の仲間に話をしたい」と小澤さんは言う。「小澤さんは12弟子の一人ですね」。山崎さんは笑顔で語りかけていた。