映画「ザ・イ-スト」――大企業の社会悪と正義の告発を突く秀逸なエッジ・サスペンス
捜査官や警察官というような国家公務員には、その心情には公儀な正義感というようなものがどこか根を張っているのだろう。巨大組織の中で長いものに巻かれているような状況であっても、何かのきっかけでその正義感が燃やされ大きな力に立ち向かわざるを得なくなる。自分の損得を超えて、危険をも顧みず大企業の巨悪に立ち向かっていく姿はクールだ。効率と経済性優先の物質文明の行き過ぎに、暴力ではなく問題の所在をリークする戦いをエッジの効いたサスペンスでクールに描いている。
元FBI捜査官のサラ(ブリット・マーリング)は、大企業に対するさまざまなテロ行為に対処するセキュリティ会社ヒラー・ブルードのエージェントに採用される。代表のシャロン(パトリシア・クラークソン)から与えられた任務は、「世界的な悪徳企業3社に、今後半年間で制裁を加える」と予告した環境テロリスト集団’イースト’に潜入し、その正体を暴けというもの。’イースト’のテロ活動は、爆破などの暴力的なテロではなく、大西洋を原油で汚染した石油会社オーナーの屋敷に大量の原油を流し込むというような、マスコミと市民層に向かってセンセーショナルに問題を提起する制裁活動。
髪を金髪に染めてアリゾナから来た旅人に変装したサラは、’イースト’のメンバー、ルカ(シャイロー・フェルナンデス)に接触し、彼らのアジトに潜入する。リーダーのベンジー(アレクサンダー・スカルスガルド)は、当初はサラを警戒する。
アジトでは、スーパーのゴミ箱など廃棄された果物や食料で食事している。サラがアジトに迎え入れられた最初の夕食。全員が拘束服を着てテーブルを囲み、ゲストのサラから食事をどうぞと勧められる。手が使えず、テーブルの皿に犬のような格好で口をつけて食べようとするが思うように行かない。メンバーは、各自がスプーンにスープをそそぎ、互いに隣りの者に食べさせ、次に交代してスープを隣りの者に食べさせる。その手本をみせられ互いを思いやる’イースト’の精神を聴かされ愕然とするサラ。彼らの質素さと環境汚染や薬害問題などを真剣に糾弾し、危険を冒しても止めさせようとしている姿勢に、サラの何かが変わっていく。
やがて、次のテロの目標が、製薬会社のパーティに定められる。ベンジーはまだ皿を信用していない。仲間のイジー(エレン・ペイジ)もサラを追い出すように進言するが、ルカはサラをかばう。そのいざこざの中、主要なメンバーが1人’イースト’を脱走した…。
捜査潜入ドラマとしての心理スリラーとしても、環境破壊、薬害、鉱毒汚染という骨太の社会問題をストーリーの柱に据え、達成か阻止か逮捕かのサスペンス。どのような立場と切り口からも、いろいろな見方が出来る面白さは秀逸。
サラが、ヒラー・ブルードの面接に行く前、「私に力をください。傲慢にならず、弱くもならず。アーメン」と聖書のことばとともに祈る。この祈りの言葉が、サラの行動と決断のキーワードしてストーリの重奏パートを奏でているようで心に残る。 【遠山清一】
監督:ザル・バトマングリ 2013年/アメリカ/116分/映倫:G/原題:The East 配給:20世紀フォックス映画 2014年1月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.foxmovies.jp/theeast/
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