5月19日号紙面:「平成」から「令和」へ 天皇「代替わり」の宗教性に憂慮、危機感 キリスト教4団体の関係者が緊急記者会見 皇室祭祀への政府関与が問題
「平成」から「令和」へ 天皇「代替わり」の宗教性に憂慮、危機感 4団体の関係者が緊急記者会見 皇室祭祀への政府関与が問題
日本国憲法第1条で「日本国民統合の象徴」と規定される天皇が交代した。2016年8月8日の天皇自らの「おことば」に端を発して成立した「皇室典範特例法」により、4月30日には明仁天皇が「退位」し、翌5月1日には徳仁(なるひと)天皇が「即位」、「元号」は「平成」から「令和」に変わった。この一連の動きを天皇の「代替わり」として連日メディアが報じ、日本全体が祝賀ムードに包まれているかのような雰囲気の中、キリスト教界では、信教の自由、政教分離に危機感を覚え、天皇制を問い直す集会が各地で開かれた。(2、3面に関連記事)
「平成最後の日」の4月30日、日本キリスト教協議会(NCC)靖国神社問題委員会(星出卓也委員長)は違憲状態の天皇代替わり儀式に抗議する「4・30緊急記者会見 許すな憲法違反の代替わり儀式」を日本基督教団信濃町教会(東京・新宿区)で開催、金性済(キム・ソンジェ、NCC総幹事)、上中栄(日本福音同盟〔JEA〕社会委員会委員長)、光延一郎(イエズス会司祭、日本カトリック正義と平和協議会秘書)、加藤誠(日本バプテスト連盟理事長)の各氏が会見に臨んだ。
最初に、NCC靖国問題委員会委員長の星出卓也氏が経緯を説明。「私たちは、国のいちばんの原則である日本国憲法に反した形で、天皇代替わりが行われていくことに対し、このままではいけないという思いでいる。特に剣璽(けんじ)等承継の儀は、天照大神の神勅に基づく神としての権威を受け継ぐ儀式であり、それが国事として行われていく。これを容認するならば、かつての神道体制が大手を振るい、日本を支配することになる。政教分離原則がなし崩しの形で代替わりが行われていくことに抗議の声を上げるため、ここに集まった」と語った。
光延氏は、日本カトリック司教協議会が安倍晋三首相に宛てた「天皇の退位と即位に際しての政教分離に関する要望書」を読み上げた。要望書では「今回の大嘗祭でも前回を踏襲する方針が示された」ことに遺憾の意を表し「天皇の退位と即位に関する一連の行事にあたって、日本国憲法が定める政教分離原則を厳守し、国事行為と皇室の私的宗教行事である皇室祭祀の区別を明確にすること」を要望した。
金氏はNCCの立場から「天皇代替わり報道に際し、国民主権に基づいた適切な報道を行うよう報道各社に要請していく」とし、「憲法を逸脱した用語や表現を政府が用い、それが批判されないままに報道される例が見られる。私たちは報道各社が国民主権の立場に立って、公正な報道をするよう求める。天皇が主権者であるかのような表現はしないでほしい。例えば『内奏』や『ことほぐ』など、主権者にすべての国民が服従を求める強制力になりかねない表現が報道でも無批判に垂れ流されている。過度な敬語表現は国民主権、平等の原則に反している。私たちは時の政府の不当なあり方に疑義を呈し、報道各社が政府発表をそのままなぞるような姿勢を示していることを深く憂慮する」と語った。
上中氏は「天皇が好きか嫌いか、皇室に関心があるか否か、天皇制に賛成であるか否か、立場が右か左かに関係なく、大嘗祭などの宗教行事に政府が関与することが問題であり、政教分離原則に反する」と指摘。「天皇代替わりの一連の行事によって、民主主義が静かに瓦解していくことを懸念している。また、そのことに対する懸念、それに対して問題意識を持たない市民社会、世論にも懸念する。キリスト教会がなぜ戦争の反省にこだわるのか。それは、かつて自分たちが思考停止に陥ってしまったことへの反省だ。天皇代替わりに関しても何が問題なのか、祝賀ムードの中で思考停止にならないためにも、民主主義、平和、信教の自由、政教分離原則とは何か。価値あるものとして守られているのかを、政府批判だけでなく自己批判も含めて問いたい。自由な社会をつくり上げていくために奉仕していきたい」と述べた。
加藤氏は、「17世紀にイギリスで生まれたバプテストというグループは、『信仰とは一人一人の、自由な、主体的な権利である』ということを主張した。アメリカに渡り、アメリカ合衆国憲法の中に信教の自由を入れることを強く主張したことで合衆国憲法に信教の自由が権利として入った。国の、家の宗教でなく一人一人が主体として信仰を選び取っていく、そういう立場に立っていくつかの表明をさせていただいた」とし、日本バプテスト連盟の各委員会が出した声明、理事会の信仰表明を紹介した。
質疑応答の中で金氏は「教会が危険を覚悟の上で、間違っていることは間違っているとメッセージで発信することが大事だ。その根底には、かつてそうでなかった時代があったことを神様の前で告白し、悔い改めるという歴史経験がある。私たちの抗議行動にはこういうことが後ろに隠れていることも承知してくださればと思う」と語った。
「即位の日」の皇居前 表参道
皇居前は人であふれていた(写真上から2番目)。表参道には道路沿いに日の丸が並ぶ(写真上から3番目)。青山通り沿いのお店では墨字で書かれた「令和元年」の文字が見られた(写真上から4番目)。