「北アイルランド紛争における教会の平和構築への貢献」 上智大学教授 小山英之

2月3日に行われた「第6回東日本大震災国際神学シンポジウム」(主催=OCC・災害救援キリスト者連絡会、東京基督教大学、青山学院宗教センター、キリスト者学生会、学生キリスト友愛会、共催=フラー神学大学院)(2月16日号で一部既報)では、フラー神学大学院旧約聖書主任教授のレスリー・アレン氏の主題講演を受けて、3氏による応答の後、分かち合い、パネルディスカッションが行われた。上智大学教授の小山英之氏による応答講演を抄録する。

宗教と紛争
キリスト教が社会的状況と関連し合っていかに紛争を生むか、その上で、キリスト教が平和構築のためにいかに貢献できるかを、カトリックとプロテスタントが争ってきた北アイルランド紛争の事例から考えたい。
北アイルランド紛争の原因は、17世紀の入植によってもたらされた、英国によるアイルランドの植民地支配であり、宗教が直接の原因ではない。構成員の多くがカトリック信者である武装組織暫定派IRAも、彼らの闘争そのものがその信仰に基づいているとは言いがたい。彼らは、自分たちを二級市民として差別してきた、英国と英国人としてのアイデンティティーを持つプロテスタントの人たちの帝国主義に対して闘ったのである。

キリスト教の紛争解決への積極的貢献
紛争のきっかけは、少数派のカトリック住民に対する就職差別、劣悪な住宅状態など、社会的不公正、人間の尊厳の欠如といった構造的暴力であり、政治的、経済的理由である。北アイルランドにおいては、カトリック住民は少数派だが、多数派のプロテスタント住民にすれば、英国から独立しカトリックが87%と多数派を占める南のアイルランド共和国と南北アイルランドの統一がなされた場合、自分たちが少数派となる。北アイルランドでは、カトリック、プロテスタント両者ともに少数派であるという意識を持つ二重のマイノリティー現象が生じ、紛争はもともと互いに対して抱いた嫌悪感、敵対心を強くし、両者とも被害者であると考えるようになってしまった。
その紛争も、1998年のベルファスト協定と呼ばれる歴史的合意、2005年の暫定派IRAの武装解除、07年の北アイルランド自治政府復活により、政治的には決着した。その和平プロセスにおいて、英国政府、アイルランド政府は第三者の力を借りて暫定派IRA、プロテスタント武装組織と対話を続けたが、その第三者として司祭、牧師、大主教、労働組合が果たした役割は大きい。その中でも最も重要で困難な仕事のために、アレク・リード神父は大きな貢献をした。鍵となる要因は「対話と関係作り」であった。
3月15日号に全文掲載