“復興”とかけ離れた現状の中で 木田惠嗣(ミッション東北・郡山キリスト福音教会牧師牧師、 福島県キリスト教連絡会前代表)

写真=ライブ中継で講演をした石川氏

 福島県内では東日本大震災後満9年を迎え、福島県放送伝道を支える会の諸教会が中心となり、森祐理復興支援コンサートを県内4か所で開催する計画を立てておりましたが、新型コロナウィルス感染症の広まりと共に、各自治体の施設使用に制限がかかるなどしたため、今年度の計画を断念せざるを得ませんでした。来年度、再度、10周年記念コンサートができればと願っています。また、福島県キリスト教連絡会(FCC)は、3月3日に、「三・一一記念集会」を、須賀川シオンの丘にて開催予定でしたが、これも、中止をせざるを得ませんでした。

 しかし、記念集会の講演者Café de FUKUSHIMAの代表、石川和宏氏には、「原発爆発から9年、被災者の今〜この2年で話を聞いた被災者・三千人〜」と題して講演をしていただき、インターネットでライブ中継をしました(https://www.youtube.com/watch?v=_x6E4Fxg9WM)。

 石川氏は、宮城県生まれの72歳で、原発も作る大手電機メーカーを定年退職後、中小企業の役員として10年働いて来られましたが、東日本大震災直後から、原発被災者支援活動を始め、2015年には、宮城県山元町に支援ベース「サマリタンハウス」を設け、精力的に、福島県各地の復興住宅等を巡回し、被災者支援に当たって来られました。19年は福島県内46か所千329人に支援を行われました。

 石川氏の講演は、原発事故と放射能汚染・避難の現状について様々な資料を駆使して説明され、その後、Café de  FUKUSHIMAの働きを通して聞き取って来られた被災者の声を語ってくださいました。

「御名があがめられる」ことを実現

 印象的であったことは、震災後9年が過ぎた現在も、県外・県内に約4万人もの避難者が存在すること、また、避難者の数にも数えられなくなった復興住宅入居者の現状が伝えられたことです。

 福島県の震災関連死者数は、19年12月現在2千286人と直接死者数を上回っており、被災三県の中で最も多いのが特徴です。県内の市町村では、南相馬市の震災関連死者数が異様に多いと指摘されました。石川氏は、その理由として、避難エリアの度重なる変更により、住民に多くのストレスがかかったためではないかと推測しておられます。

 さらに、福島県の避難者の孤独死の問題が取り上げられました。復興住宅の入居者は、65歳以上の高齢者が約4割を占めています。集合住宅であるため、その厚い壁に阻まれて、入居者同士の交流が希薄な上、震災によって家族が分断され、孤独死が増えていると分析されました。また、福島県では、震災関連自殺が被災した他の2県と比較して、2倍程度多いという情報もショッキングでした。

 避難指示の出された町や村では、児童生徒数が激減しており、震災前には、7千710人いた児童・生徒数が18年5月1日現在、地元で授業を再開した校舎に通う人数が758人となっており、復興の掛け声とはかけ離れた現状を語ってくださいました。

 Café de FUKUSHIMAの支援活動では、このような現状を踏まえ、復興住宅の周りの住宅にもチラシを配り、人々が地域住民の中に溶け込むことができるよう配慮し、「笑い」が生まれる交流を心がけてこられたとのことでした。

 「いちばん語りたい肝は、私たちが被災者に寄り添うことによって、主の祈りの『御名があがめられますように』という祈りをその場で実現しているのではないか」との、石川氏のことばが心に残りました。

※新型コロナウイルスの影響で、東日本大震災から9年を迎えた3月11日前後の記念集会が中止となりました。今回は岩手、宮城、福島の各地の教会ネットワークに東日本大震災から9年の現状と展望を寄稿していただきました。