日本の皆さん、ニューヨークにいる私に「大丈夫ですか?」というメッセージをたくさんくださり本当にありがとうございます。お礼を兼ねて近況報告をします。
ニューヨークは大変な状況にあります。3月27日現在、ニューヨーク州の感染者数は44,870名(37,258)、死者数527名(385)です。カッコ内は前日の数です。1日の増加数が分かると思います。
ニューヨーカーは外出を避け、自宅に引きこもっています。「コロナがどれだけ危険か」分かったからです。私自身、最初は危険性が分からず、「ただの風邪でしょ?」と、どこかの大統領のように軽く見ていました。多くのアメリカ人もたぶん同じだったと思います。しかし、だんだん時間が経ち、ウィルスがどんなものか分かってくると、態度は一変しました。
ただ、アメリカが凄いと思ったのは「とりあえずお金のことは後で考え、今は命を守ることを最優先しよう」との判断が一瞬にして行われたことです。数日後レストランやバーを閉めると決まった時、それを知ったお客さんたちは、いつもより多くチップを置いていったという話をいろいろなところから聞きました。店が閉まればウェイターたちの仕事がなくなると予測してのことです。スーパーに行列ができた時には、高齢者を優先的に店に入れたという話も、いくつも聞きました。この国の国民は普段は「自分ファースト」に見えるけれど、緊急事態が起きたときは自然と「協力し合うのは当然」という、人間味ある国民性が出てくることです。
もちろん美しい話ばかりではありません。コロナウイルスを「チャイニーズ・ウイルス」とトランプ大統領が繰り返し発言したことで、アジア人への偏見が高まったことも事実です。「チャイニーズのせい」と露骨に怒鳴られ、暴行を受け、電車の中であからさまに避けられたアジア人が私の周りで後を絶ちません。ところが、そんな状況が起こったとたん、あるNPO法人は「コロナに関するアジア人差別」のリサーチに乗り出し、ニューヨーク州検事総長はアジア人差別の声を受け付けるホットラインを立ち上げました。困っている人がいると放ってはおけない気持ちがあるのです。理由はやはり、アメリカ人が基本的に同じ道徳観、つまり「聖書」にある「隣人愛」を持っているからではないでしょうか。
私も仕事が次々とキャンセルになり、収入の見通しが立たなくなりました。本来なら途方にくれるはずです。しかし、不思議と夜はぐっすり眠れて不安をあまり感じません。たぶん周りに愛があることを感じられるからだと思います。
私の近所の警察は常時、みんながソーシャル・ディスタンス(人と人との距離を1・8メートル保つ)のルールを守っているか、トラブルはないか、倒れている人はいないかとパトロールしてくれています。市長も州知事も連日会見し、最新情報を市民に伝えています。学校閉鎖し、食事に困っている子どもたちへの食事提供も、ニューヨーク市は毎日行っています。仕事に行けない人への収入の補助も決定され、必要な人は利息無しでお金を貸してもらえたり、家賃や光熱費を払えなくなっても追い出してはいけないと勧告があったり…と、様々なことが行われています。私の所属する教会も閉まっていますが、週2回2、3時間、食事や衣料品などの提供をしています。
そういうこともあり、SNSでもアメリカ人の多くは批判より「みんな大丈夫? 頑張って一緒に乗り越えようね~」と、この状況でも働いている人たちに感謝する投稿が多いです。最初は暴動が起きるのでは、と心配しましたが、アメリカ人は私が想像していたよりずっと大人でした。
隣人愛とは、施しを与えることや受けることではなく、誰かがやってくれるから、自分は何もしなくても…という怠慢な気持ちでもありません。自分が困っている時、つらい時に誰かが救いの手を差し伸べてくれるはずだから、自分もできる時は何かしなくては…というとてもポジティブな気持ちなのです。これが隣人愛です。
危機的状況に直面する時、人間の内側から出てくるのは憎しみ、苦しみではなく、愛でなくてはなりません。つらい状況にあっても、「あ~、今日は空が青いなあ」とか「鳥の声が聞こえるなあ」とか、何かしら良いものを見つけて感謝できること。これが人間らしい生き方ではないかな、と。私も普段やらない場所を掃除し、壊れていた棚を修理し、クロゼットを片づけるなど、今までできなかったことをやっていますが、「あれ?こんなところにこんなものが」とか、無くしたと思ったものが出て来たりとか、懐かしい手紙が出てきて「そういえば、あの人どうしてるかなあ」と気になって連絡してみたり。のんびりした時間が過ぎていくのです。
これから先のことを考えると、確かに大変かもしれません。しかし、神様は現代人に「生き方・働き方を変えないと、このままでは地球が滅びてしまうよ」と教えてくださっているような気がしています。全人類が今の社会生活を見直す必要があったのかもしれません。
日本でもこれから感染拡大が始まるでしょう。この数日間の日本への帰国者の情報によると、日本の空港での感染予防対策は、かなり甘くて驚いたとのこと。しっかり備えて予防と感染拡大にお互い協力し合い、日本でも「隣人愛」が広がることを祈っています。God Bless You!
(打木希揺子=ゴスペル・プロデューサー、米ニューヨーク市在住)

写真は打木さんが所属する、ハーレムにあるべセルゴスペルアッセンブリー教会

※この文章は打木さんがフェイスブックに投稿したものを、本人の了解を得て、多少の編集を加えて転載しています。