「〝怒り〟鎮める言葉 何百回も…」 DV加害者の小学校教諭 その回復体験

厚生労働省発表の「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」によると、19年の離婚件数は21万組で、婚姻件数の3割以上(3組に1組)が離婚。その原因の第2位が、配偶者から振るわれる暴力(ドメスティックバイオレンス、以下DV)だ。一般紙によると、コロナウイルスの感染が拡大した2020年5、6月は、生活不安やストレスなどで、政府や地方自治体の相談窓口に寄せられたDV相談件数が前年同月比でそれぞれ1・6倍に増え、DV増加や深刻化が懸念されているという。そんな中、NPО法人「女性・人権支援センター ステップ(以下ステップ)」(栗原加代美理事長)は、2011年からDV加害者更生プログラムを実施。これまでに150組の夫婦を回復させてきた。その一人、現在小学校教諭でクリスチャンだが、DV加害者でもあったYさんに、体験談を聞いた。【中田 朗】

7つの悪い習慣と良い習慣

2016年6月のある夜のこと。Yさんは、ちょっとした口げんかをきっかけに、妻に殴る蹴るの暴力を振るった。「『お前、言っていることが違うだろ』と、手を出したのはその日1回だけだったけれど、翌朝、妻は出て行ってしまった。置き手紙があって、そこに『あなたのやったことはDVだ』と書いてありました」
もともと怒りっぽい性格で、イライラしやすく、自分の思い通りにいかないと切れやすいタイプだった。だが、「ちょっと気が短いかな」としか思っておらず、妻に対しても「なんで出ていくんだ」としか思えなかった。「自分はDV行為をした」という自覚は、全くなかったという。
それでも、「今のままでは戻ってきてくれない。反省しているそぶりを見せなければ」と、妻との関係を修復し、一緒に暮らせるようになることを目的に、ステップに通い始めた。「自分から願って参加した、というのでは正直なかった。自分のほうが正しいという思いがあったので。子どもと妻が戻ってきてくれるならと、最初はしぶしぶ参加でしたね」
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その年の10月から、ステップのグループワークに参加した。グループワークでは、同じ境遇の加害者が一緒に参加し、自分のしたDV行為などを分かち合う。みな52回にわたり、1年かけて参加するが、そこは怒りを起こさせる思考(ゆがんだ価値観)に気づきが与えられ、思考を変えることで「怒り行動」をなくしていく重要な場所でもある。
Yさんも、そこで自分がDV加害者ということが明確に分かってきたと振り返る。「最初は、他は悲惨な人たちで、自分はまだましだと思っていたが、回数を重ねるうちに、同じことで悩んだり傷ついたりしていることに気づいた。それにはうそも飾りもない。本当にひと言ひと言真剣に語られているので、胸に突き刺さるものがあった。他の人のDV行為を聞く中で、重なる部分がありました」
特に自分の中に強いと感じた思考が、「女性は従え」、「妻は夫の言うことに従え」、「女性は家事をしなければならない」といったジェンダーバイアス(男女の役割に関する固定的な観念)だった。「自分がだんだん見えてきて、本当にショックだった、、、、、

2021年1月3・10日号掲載記事