© 2019 Whitefalk Films Pty Ltd, Spectrum Films, Create NSW and Screen Australia

重い病に冒されている16歳の女子高生ミラ(エリザ・スカンレン)。父親ヘンリー(ベン・メンデルソーン)は精神科医。母親アナ(エシー・デイヴィス)は元ピアニスト。小康状態だがいつ再発してもおかしくない厳しい状況のミラを溺愛する。そんなミラが、いくつものワンポイントタトゥーを入れている不良青年モーゼス(トビー・ウォレス)との出会いから青春といういのちの輝きを一瞬燦(きら)めかせて消え去ってしまうようなラブストーリー。

瞬間、魅入られたミラ
駅のホームでの出会い

シドニーのセントラル駅。通学途中のミラは、電車がホームに入ってきたとき青年がぶつかってきて列車と自分との間に立ちはだかった。唖然とするミラ。何か所もポイントタトゥを入れているぶつかってきたモーゼスが振り返り、無言で見つめられると魅入られたようにフリーズし、列車を乗り過ごしてしまう。病気のためか突然、鼻血が出て倒れてしまうミラ。自分のシャツで止血して介抱するモーゼス。気を取り戻してそそくさと立ち去ろうとするミラに、モーゼスは唐突に「家を追い出された。金を貸してくれ」と無心する。ミラは怒ることもなく、「私の髪を切ってくれるなら」を条件に財布の中の50ドルを貸す約束をする。

モーゼスの家でミラの頭を刈っていると、外出していた母親と弟が帰ってきた。慌ててミラをキッチンから逃がした直後、モーゼスを見た母親は、警察に不法侵入者として通報しようとする。外でその様子を窺っていたミラは、モーゼスが母親に勘当同然に扱われていると察する。モーゼスを自宅へランチに誘う。両親はモーゼスとの会話で、ミラより年上で定職のないことやドラッグの常用を見抜いて不快感を募らせる。母親のアンは、精神的に不安定で夫のセラピーを受けていて処方されている薬の影響か、モーゼスへの不快感からハイになり「彼には問題がある!」と諫めると、ミラは「私もよ!」と言い返す。モーゼスをかばうミラの心情を慮り様子を観ようとするヘンリーとアン。モーゼスに親しみを感じているミラは、知ることもなかった不良たちのパーティへ出掛け、モーゼスとのロマンスに冒険しようとする…。

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進行する病気に
苦しむミラの覚悟

どこか不可思議な出会いとドタバタな一日から始まる物語そのままに、おかしな人間関係が絡み合う。両親は価値観は釣り合っているが、医師と患者の関係でもある。だが父親は向かいの家の若い妊婦に浮気心を抱いている。一方の母親は、元カレのヴァイオリニストの家にミラを習いに通わせていて、ときどき元カレとも会っている。母親に勘当されているモーゼスだが、真面目な弟とは仲がいい。それぞれがコミカルな関係を展開してミラの余命という重たい空気感を和らげている。

ミラは、モーゼスと出会い初めて恋をする。不良のモーゼスは嫌いだが、ミラの思いを尊重しようとする両親の黙認。恐いもの知らずのようで自分と自然な態度で接するモーゼスといると、ミラは生きていることの充実感に躍動していく。だが、進行する病気の苦痛からミラが死ぬことを決断したとき乳歯が抜けた。後から永久歯が生え替わるように、死を見つめてきた少女が、自分が生きてきたことの証しを遺すかのように、最期の希望を懸けたラストのシークエンス。その演出は、人間の絆を温かく見つめていて爽やかで愛おしい。【遠山清一】

監督:シャノン・マーフィ 2019年/オーストラリア/117分/原題:Babyteeth 配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム 2021年2月19日[金]より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー。
公式サイト https://babyteeth.jp
公式Twitter https://twitter.com/babyteeth_jp

*AWARD*
2019年:第76回ベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞:トビー・ウォレス)受賞・ベストカップル賞(ミラ&モーゼス)受賞・サウンドトラック部門審査委員特別賞受賞、ビサト・ドーロ部門最優秀作品賞受賞。トランシルヴァニア国際映画祭グランプリ受賞・観客賞受賞。ビンヤオ国際映画祭観客賞受賞。サンパウロ国際映画祭新人監督部門審査委員賞(シャノン・マーフィ)受賞。マラケシュ国際映画祭最優秀俳優賞(トビー・ウォレス)受賞。ベオグラード国際映画祭脚本賞受賞。パームスプリングス国際映画祭期待の監督賞受賞。チューリッヒ映画祭国際長編映画部門特別賞受賞。