2025年8月28日

『アメリカはいつも夢見ている はた迷惑だけど自由な「夢の国」が教えてくれること』渡辺 由佳里著、ＫＫベストセラーズ、千980円税込、四六判、２０２２年 前回 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-0md19fkjgcduasus/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-0dzhenaspm69exrz/ 今年７月、北米を訪問した。私は７年ぶり、妻は25年ぶりであった。物価が高かった。イチローがプレーした野球場でピザとミネラルウォーターを買ったら30ドル（約４千500円）した。在米日本人や日系人に出会ったが、「はた迷惑なアメリカ」（留学生を追い出す、関税を人質に様々なディールをする、嘘を真実であるかのように主張するなど）の話はなかなかしてくれなかった。政治の話も稀（まれ）であった。言いたそうだけど、議論を避けるために語ろうとはしないのだろう。分断されている、と感じた。 だからといってはなんだが、アメリカに関する本の話をしよう、と考え、渡辺由佳里のエッセイ集を選んだ。彼女はアメリカ人と結婚して、30年近くボストン近郊に住んでいるエッセイストである。年間に200冊以上の洋書を読み、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』などの著書でそれらを紹介している。本書は、２０１５年から７年間にわたってのオンラインマガジンでの連載をまとめものである。 １９９０年代に10年、北米に留学していた頃の記憶がよみがえった。 「この国はただ人口が多いだけではない。突き抜けて優秀な人がいる一方で、手のつけられないほどの『はた迷惑』な人や仕組みも多い」。渡辺のエッセイはそのときの私の印象と重なり合う。 渡辺は北米に住むアジア人女性の視点から語っている。その視点から（私が共感することも多かったが）いろいろな「はた迷惑」なアメリカが描かれている。医療保険制度がもたらす悲惨な老後（196頁）、ハリウッドの映画プロデューサーのセクハラ（327頁）、性暴力被害者の苦悩（349頁）、教会での児童性的虐待（380頁）、行きすぎたセクハラ告発（388頁）、伝統的男らしさの弊害（410頁）、アメリカ白人の常識が世界の常識だという勘違い（441頁）。かたちは異なれ、日本社会にも同様の「はた迷惑」な側面がある。 一方で、私たちの当たり前を軽々と飛び越える人々の姿も描かれている。 「下手くその達人たち」。40代でサーフィンに惚れ込み、1年のうち８か月はサーフィンをする生活を17年続けているのに、いまだものすごくサーフィンが下手な作家。普通なら５年経たずにやめるのに（はじめて自分で波に乗れたのが５年目らしい）、好きだから今もその生活を続けている。大統領を引退してから油絵を始め、お世辞にも上手ではないけど、それを心から楽しんでる元大統領（77～83頁）。 「内向型の強さ」。外向型が当たり前と思われている国にも、「家でパジャマを着て仕事をしているほうがいい」、招待されても必ず「ノー」と断る、エンターテインメント業界の大物がいる。慈善基金団体の啓蒙活動を支援したり、選挙の激戦区でネットワーク作りを実現した女性社長が出した本のタイトルが『トイレに隠れている』。内向型のよさを見きわめて、自分なりにそれを活（い）かしている（84～93頁）。 「オールドマネーの質素さ」。何世代にもわたって富を蓄積した富裕層（オールドマネー）は、質素倹約を美徳としている。他人に見せびらかすように使わない。重要でないことには浪費しない。20年以上も同じボルボを運転している。服や靴も上品なものを長い間使い続ける。「穴が空いたセーターを着ている者ほど大金持ちの可能性がある」とさえ言われる。大統領予備選への立候補者が、洗濯機で丸洗いできるスーツを毎日着て、それも自分で洗濯している（169～170頁）。 「超人的女子大生」。トップ校で学んでいる女子大生たちは、講義と実験、授業以外の活動、将来の専門分野でのインターンシップで毎日を過ごす。朝起きた瞬間からベッドに戻るまで、立ち止まって考える暇もない生活が続く。長期休暇も、就職を念頭においたインターンシップが毎日。それを四年間積み上げないと、投資銀行などに就職はできない。医学専門の大学院に入ったとしても、学費と生活費で40万ドル（６千万円以上）の借金ができるし、卒業しても安月給の研修医生活が続く。どんなシナリオを考えても、子どもを産む暇はない。それでも楽しそうに前に進む。そんな彼女たちの人生のパートナーとなるのはどんな男性なのだろうか（234～264頁）。 こんな人々の姿を見ると、留学中に私が教えられたことが思い出されてくる。しがらみに捕らわれない自由。本当に大切なものに徹底的にこだわる自由。渡辺の本に登場している人々ほどではないけど、真理によって与えられた自由（ヨハネ8・32）があるから、見えない場所で世界を少しだけ変え、子どもたちの未来を作る「名もなき英雄」（76頁）になりたいと思った。 鎌野直人＝関西聖書神学校校長 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-0md19fkjgcduasus/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-0dzhenaspm69exrz/

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2025年8月28日

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