映画「ロング・トレイル！」－－人生にチャレンジが湧く軽妙洒脱なロードムーヴィー
身長1メートル程度の幼稚園時代、100メートルほど先にある公園が遠くに感じられ、その向こう側の道はどこまで続くのか一人で行ってみたい衝動に駆られた思い出が懐かしい。還暦を越えたシニアともなれば、アメリカでも有数の長距離自然遊歩道“アパラチア・トレイル”の走破に衝動を駆られる。全行程3500キロメートル。長年絶交状態だった旧友との二人旅。雄大な大自然のなかで互いに心の内側をさらけ出していく。それぞれの人生の苦悩も軽妙洒脱な会話に引き込まれ、日ごろ胸の奥に痞（つか）えているようなものが軽やかにされるロードムーヴィーだ。
【あらすじ】
著名な紀行作家のビル・ブライソン（ロバート・レッドフォード）は、60歳代を迎えて長年執筆活動していた英国から祖国アメリカのニューハンプシャー州に戻り妻キャサリン（エマ・トンプソン）や子どもたちと暮らしていた。環境も変わりセミ・リタイア状態のビル。人と会話するのも億劫な気分の日々だが、知人の葬儀から帰宅し散歩していると標識に“アパラチア・トレイル”と記された自然遊歩道が通っているのを発見した。
書斎で早速“アパラチア・トレイル”について調べてると、ビルの冒険心がさらに高まる。古いテントを引っ張り出して庭に設置してみるビル。だが、キャサリンは、間違いなく高齢者のビルがアパラチア山脈に沿って数か月間3500キロも走破する計画などとても賛成できない。“アパラチア・トレイル”でクマに襲われた事件や死後数週間経ち腐乱した板となって発見された新聞記事などをテーブルに置いて反対する。それでも、「この道を歩いてみたい」という決心が変わらいのをみて、キャサリンは「一人で行くのはだめ！」と条件をだす。
ビルは、思いつく友人すべてに電話を掛けまくるが、年齢を考えてだれも賛同する者はいない。出発時期の4月になり、40年前に貸した600ドルを踏み倒した旧友スティーヴン・カッツ（ニック・ノルティ）が、友人から聞きつけて同行を申し入れてきた。あまり気乗りしないもののキャサリンの条件をクリアできる可能性が他にないため受け入れたビル。
空港で再会したスティーブンのメタボ体型に戸惑うビルだが、翌日、出発地のジョージア州スプリンガーマウンテンのスタート地点に立った。案の定、スティーヴンは思うように歩けず、ボーイスカウトの子どもたちにも追い越されていく。少しイラつくビルだが、途中からメアリー・エレン（クリステン・シャール）という女性が同行してきた。あまりのおしゃべり好きに辟易するビルとスティーヴン。結託してメアリーをやり過ごしてからは、少し気持ちが通じ合ってきた。
酒とオンナに明け暮れ勝手気ままに生きてきたというスティーヴンは、警察からの出頭命令を無視して“アパラチア・トレイル”に来たという。作家として名を成し、妻のキャサリン一人を愛してきたビルに「身体に悪い」と言っては、買い出しに立ち寄った町のモーテルで浮気を進め、自分も豊満な女性をランチ誘ってアタックするが、嫉妬深い彼女の夫に追い回されモーテルを逃げ出す始末。ついには、レンターカーで遅れている日程を取り戻そうと進言するスティーヴンに、ビルは「ズルはしたくない。ベストを尽くすことに意味がある」と受け付けない。生き方も考え方もまったく異なる二人。6月になっても目的地のメイン州マウント・カタディンまでまだ3分の2もの道程がある…。
【みどころ・エピソード】
原作は紀行作家のビル・ブライソンが1998年に書き上げた“A Walk in the Woods”（邦訳：『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く』中央公論新社刊、2000年）。原作者本人の体験をもとに映画化されているだけに、自然遊歩道がついているとはいえ、環境破壊が進みつつある自然環境の厳しさやクマなどの出現などは実際に起こり得る。そうした大自然の厳しさを超えて映し出される大森林や夜空に浮かぶ満天の星雲など大画面ならではの映像美。さらには、インテリジェンス豊富なビルに向かって、「そんなに細かく見るなんて。俺はもっと大きく物事を見て生きてきた」というスティーヴンとが理解し合い打ち解けていく物語は、たとい長年離れていてもお互いがこれから生きていくための力を湧きたててくれる掛けがいのない存在であることを教えてくれる。ひとは、ベストを尽くそうとしている友にエールをおくり、その姿に励まされる。 【遠山清一】
監督：ケン・クワピス 2015年/アメリカ/104分映倫：PG12/原題：A Walk in the Woods 配給：ツイン 2016年7月30日（土）よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.long-trail.com
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