自分を”相棒”と呼び優しく愛してくれる父親が戦場から生えって来るのを信じて願い続けるペッパー少年 (C)2014 Little Boy Production, LLC. All Rights Reserved.
自分を”相棒”と呼び優しく愛してくれる父親が戦場から生えって来るのを信じて願い続けるペッパー少年 (C)2014 Little Boy Production, LLC. All Rights Reserved.

1945年8月6日、ヒロシマに落とされた原子爆弾は“リトル・ボーイ”と呼ばれていた。一方、ノーマン・ロックウェルの画風そのままのアメリカ西海岸の片田舎で暮らす8歳の少年は、身長が低いためクラスメイトから“リトル・ボーイ”と呼ばれいじめられていた。奇妙なつながりは、“戦争を早く終わらせたい”という願望に結びつく。教会の司祭が教えた祈りと実践のリストを達成すれば、出征した父親は帰国できると信じた少年。ピュアな信仰をとおして戦時下のアメリカ社会の実相が垣間見える脚色がおもしろい。

【あらすじ】
第二次世界大戦下のアメリカ。カリフォルニア州の小さな漁村で暮らす8歳のペッパー・バズビー少年(ジェイコブ・サルバーティ)は、クラスの誰よりも身長が低いため“リトル・ボーイ”と揶揄され、いじめられていた。父親のジェイムズ(マイケル・ラパポート)は、ペッパーを「相棒」と呼んで、ペッパーの空想の世界の話にも付き合ってくれる。ペッパーにとってヒーローは、いつも優しく愛してくれる父親と、父親が好きでいっしょに見に連れて行ってくれる奇術師ベン・イーグル(ベン・チャップリン)だった。

ある日、ペッパーの兄ロンドン(デヴィッド・ヘンリー)に徴収令状が届いた。身体検査に出頭すると偏平足のため入隊できず、代わりに父親のジェイムズが入隊し太平洋戦線へ出征することになった。自分を守ってくれていたただ一人の「相棒」がいなくなり、大きなショックを受けたペッパー。そんなペッパーを勇気づけたのは、奇術師ベン・イーグルのショーでアシスタントに指名されて手伝った、念力でビンを移動させる奇術が成功したこと。ペッパーは、自分にもベンと同じ念力の力があるのではないかと信じた。さっそく教会の司祭に、どのようにすれば念力の力で父親を戦場から呼び戻せるか聞きに行く。

教会のオリバー司祭(トム・ウィルキンソン)は、ペッパーの質問を真摯に聞いてくれた。そしてペッパーが受けたアドバイスは、教会に昔から伝えられてきた6つの祈って実行するリストを達成すること。その6つのリストとは「①飢えた人に食べ物を与える。②家のない人に屋根のある部屋を。③囚人を励ます。④裸の者に衣服を与える。⑤病人を見舞う。⑥死者を埋葬する」こと。さらにオリバー司祭は、「敵を愛しなさい」と言いながら、「ハシモトに親切を」と手書きで書き添えて7つのリストをペッパーに手渡した。

(C)2014 Little Boy Production, LLC. All Rights Reserved.
父親のジェイムズはペッパー少年にとってただ一人の親友で”相棒” (C)2014 Little Boy Production, LLC. All Rights Reserved.

ハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)とは、アメリカに忠誠を誓って日本人収容所から解放され漁村に戻ってきた日系人のこと。兄ロンドンは父親が戦っている敵国人として憎しみを露わにし、魚村から追い出そうとしている。ペッパーも内心は、おもしろくない。だが、父親がすぐにでも戦場から戻れるならと、健気にもハシモトに近づき親切にしようとする。嫌われ者のハシモトは、ペッパーが親切にしようとしている理由を知るとペッパーが残りの6つのリストを達成するため手助けしてくれる。リストにチャレンジしながら、父親が戦っている日本の方向を向いて毎日念力を送るペッパー。すると、原子爆弾“リトル・ボーイ”によって日本の広島市が壊滅したという新聞記事が届いた。もうすぐ、戦争は終わって父親が帰って来れると喜ぶペッパーだが、母親のエマ(エミリー・ワトソン)は、「一発の爆弾で一つの町が滅びたのは、とても悲惨なことよ」と犠牲の大きさに心を痛める。ペッパーは、自分の念力がたくさんの人を死なせたのかと小さな心を痛める。そして、戦争が終わり父親ジェイムズの帰国を待つバズビー家に、陸軍の広報官が戦死の報告を告げに来た…。

【みどころ・エピソード】
戦時下のアメリカの小さな漁村の生活感、エミー・ワトソン演じるエマはかつてのテレビドラマ「うちのママは世界一」の在り様を彷彿とさせる。メキシコの新鋭アレハンドロ・モンテベルデ監督は、アメリカの画家でイラストレーターのノーマン・ロックウェル(1894年2月3日~1978年11月8日)の絵画に出会い、監督自身が描きたいと考えていたアメリカのエッセンスを見出したという。その暮らしぶりファッションセンスも懐かしく、愉しめる。

身長の低さに成長障がいの懸念を抱かせるペッパー少年は、まさに世の荒波と困難な状況になす術を見いだせない非力な個人の象徴のようでもある。どんなに非力なものでも、シンプルに信じて行なう決意をもって進めば、ハシモトのように予想もしない助けてが現われ、状況の進展を冷静に見つめることができるようになる。“からし種ひと粒ほどの信仰があれば山をも動かす”。そんなシンプルな信仰の世界を子どもの世界の出来事のようにユーモラスな描きかたをしているが、理想を描きにくくなっている現代に最も大切なメッセージを語っているメルヘンでもある。 【遠山清一】

監督:アレハンドロ・モンテベルデ 2014年/アメリカ/106分/映倫:G/原題:Little Boy 配給:東京テアトル、日活 2016年8月27日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://littleboy-movie.jp
Facebook https://www.facebook.com/littleboy0827/

*AWARD*
メキシコ・ルミナス賞作品賞・最優秀監督賞・新人賞(ジェイコブ・サルバーティ)受賞作品。