映画「ジャニス：リトル・ガール・ブルー」－－blues-rocksingerの渇いた笑顔が心に痛い
自作の“Move Over”、スタンダードをカヴァーした“Summertime”をジャニス・ジョプリンのパワフルな歌唱を流すと、若い世代でもどこかで聞いた感覚に浸るこどだろう。1970年年10月4日、27歳の若さで他界したジャニス・ジョプリン。魂の叫びのような彼女の歌唱を生み出すた心の軌跡を描き切っているドキュメンタリー。TVショー、ライブステージで歌うジャニスは、躍動感にあふれたパフォーマンスでオーディエンスの琴線を絡み取り一体感に溶け込まされる。だが、ティーンエイジ時代から受けていた激しいいじめと存在さえ無視される深い悲しみ。癒されない心の傷に浴びせたアルコールとヘロインの摂取は、突然の死へと導いていく。はつらつとしたステージでの笑顔と孤独感からの解放を求めるような笑顔。その渇いた笑顔が心に痛く焼き付いてしまうようで切ない。
【ストーリー】
派手なボヘミアン・ファッション、大きなサングラスはジャニスのトレードマーク。だが、ジャニスはテキサス州の小さな町ポート・アーサーで、エンジニアの父親と職業学校の事務官として働いていた母親との第一子として誕生した。6歳下に妹のローラ、10歳下に弟のマイケルがいる。
地元の高校生の時。ブルースに魅かれ、黒人に対して偏見がなかったジャニスは、白人至上主義結社クー・クラックス・クラウン（KKK）を生んだテキサスの風土のなかで学校でも変わり者扱いされ、体重やニキビなどの外見からも激しいいじめにあう。19歳の時、テキサス大学でブルーグラス・バンド“ウォラー・クリーク・ボーイズ”に加わり、20歳で旧友チェット・ヘルムズと共にサンフランシスコへ行き、ソロで歌手活動を始める。
ドラッグやアルコールの常習で健康を害し、一時帰郷して学生生活に戻ったが、23歳の時に再び“サンフランシスコでビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー”（BB&HC）にヴォーカリストとして参加。24歳の時、モンタレー・ポップ・フェスティバルに参加。2日目に出演するとエネルギッシュなジャニスのパフォーマンスがセンセーショナルを巻き起こし、急きょ3日目のスーパースター・ナイトに出演することが決まり“ボール・アンド・チェイン”を歌う。このステージがきっかけになりジャニスとBB&HCはコロムビア・レコードと契約。一気にスターダムへ上り詰めていく…。
【みどころ・エピソード】
ジャニスのステージ・パフォーマンスの映像は、もちろん堪能できる。BB&HCのメンバーやマネージャーのクライヴ・ディヴィスはじめカントリーの大御所クリス・クリストファーソン、ジャニスの恋人らなどジャニスと同時代の人たちのインタビューと、ジャニスが家族に書いた手紙を歌手のキャット・パワーがナレーションで語る演出は本作の見どころ聴きどころ。周囲のジャニスを見る目とジャニスの心情のコントラストをエイミー・バーグ監督はみごとに描き出す。オーディエンスを愛し、自分の弱さ孤独さをさらけ出して心を開いていたジャニスは、彼女の歌に心を寄せる人、励まされている人をいつまでもオープンマインドで受け入れようとしている。本作のタイトル曲Little Girl Blueには、そんなジャニスの寄り添う思いが伝わってくる。“I know you’re unhappy, Ooh ah, honey I know, Baby I know just how you feel.”（Little Girl Blueより） 【遠山清一】
監督：エイミー・バーグ 2015年/アメリカ/103分/原題：Janis: Little Girl Blue 配給：ザジフィルムズ 2016年9月10日（土）よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://janis-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/janis.little.girl.blue/
＊AWARD＊
第72回ヴェネチア国際映画祭、第40回トロント国際映画祭、ロンドン映画祭2015正式出品作品。