映画「カノン Kanon」--途切れた家族の絆再生へ導く音楽の力と輝き
母親がアルコール中毒でネグレスト状態の三姉妹を引き取った祖母。断絶した家族の絆が、祖母の遺言から過去の苦しみを思い出させ、トラウマから解放への光を求めてうねり出す。ヨハン・パッヘルベルの“カノン”が、心の奥底に微かに流れる通低音の様に物語を支え、やがて家族の絆再生への契機になって輝きを放つ。親の愛情を見失った子どものこころに深く根を下ろす哀しみに、祖母の様に隣りに寄り添う大人の存在の大きさ、大切さが心に染みる。
【あらすじ】
金沢市で老舗料亭の大女将として切り盛りしてきた祖母の岸本辰子(多岐川裕美)が他界した。早世した息子の嫁・美津子(鈴木保奈美)は、夫を亡くした悲しみから酒におぼれ離縁を申し出て、娘三人を連れて出て行った。だが、アルコール中毒は進み娘たちの前からも姿を消し、辰子が引き取り親代わりになって育ててきた。
料亭を継いで新女将を務めていた三女の茜(佐々木 希)から祖母他界の知らせを受けて、富山県黒磯市で小学校教師を務める次女・藍(比嘉愛未)と、東京で夫と二人の子どもと暮らす長女の宮沢紫(ゆかり:ミムラ)が葬儀に駆け付けた。一段落して弁護士が開封した遺言書には、「許してください。あなたたちのお母さんは生きています」と謝罪の言葉から認められていた。三人が成人する頃に、母・美津子は亡くなったと祖母から聞かされていた。三人姉妹は葬儀の翌日、母がいる富山の介護施設を訪ねた三人は、アルコール性認知症を患い、娘たちを見ても思い出せない美津子の姿に愕然とする。
母は亡くなったと話した紫は、今更夫の和彦(長谷川朝晴)には伝えられないと言い残して帰京した。長女として母・美津子の暴力から妹たちを守ってきた紫には、自分はしっかり子どもたちを育てなければという強いもいがある。だが、夫・和彦には毎日のように子どもの教育やしつけ方を一方的に責めたてられ、母親のトラウマにも苦しんでいた。
女将の重責を担う三女・茜は、いつしか仕事中でも机の引き出しにウイスキー瓶を隠し呑むようになり、アルコール中毒になった母・美津子の陰に苦しんでいた。次女・藍もまた、恋人の聡(桐山 漣)からプロポーズを受けていたが、温かく接してくれる聡の母(古村比呂)と聡の親しそうな母子の様子を見るにつけ、自分の生い立ちと比べてしまい結婚する自信を持てないでいる。そんな藍を励まして聡は、美津子がいる施設を一緒に訪問する。そこで、美津子が大切にしているオルゴールを開けた藍は、奏でられるパッヘルベルの“カノン”を聞き、幼い三人が美津子にピアノで教わった日々を思い出した。
母の記憶のどこかにこの曲が生きている…。藍は、紫と茜に連絡を取り、母・美津子の過去をたどるたびに誘い出す。母は、なぜ自分たちの前から姿を消したのかアルコール中毒になるほど何に苦しんでいたのだろう。そもそも祖母・辰子は、なぜ母が死んだなどど嘘をついたのだろう。記憶の彼方に押しやってきた“なぜ”は、それぞれ気づかずに過ごしてきた三人姉妹の絆のほつれにも触れていく…。
【みどころ・エピソード】
三姉妹が三台のピアノで奏でるタイトル曲のパッヘルベルの“カノン”は、希望の光への輝きを感じさせられる聞かせどころ・見せどころ。一昨年暮れに米国認定音楽療法士・佐藤由美子氏の著書『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社刊)が注目され、同時期に認知症やアルツハイマー患者への音楽療法を題材に描いたドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」(監督:マイケル・ロサト=ペネット)が公開され、音楽療法と記憶の活性の関連性が一般にも広く知られるようになった。本作のラストシークエンスが、起こり得る希望を指し示していることに強く励まされる。 【遠山清一】
監督:雑賀俊郎 2016年/日本/123分/映倫:G/英題:Kanon 配給:KADOKAWA 2016年10月1日(土)より角川シネマ新宿ほか全国順次公開。
公式サイト http://kanon-movie.com
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