夫と語らうイザベル (C)MOTLYS - MEMENTO FILMS PRODUCTION ? NIMBUS FILMS - ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved
夫と語らうイザベル (C)MOTLYS – MEMENTO FILMS PRODUCTION ? NIMBUS FILMS – ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved

事故や事件などで突発的な出来事で家族を失った遺族のショックは深く心を傷つける。時には、家族の関係が崩壊しかねない。心に受けた深い衝撃や悲しさは、一人ひとり異なる。その苦しみは何かと比較して、どうこう評する性質のものではないことをしっかり見つめさせてくれる。互いに見つめることから新たな不安が起きたとしても、自分を見据えて一歩進める展開が開けてくる。

【あらすじ】
著名な戦争写真家だったイザベル(イザベル・ユペール)が、交通事故で他界してから3年が経つ。夫で高校教師のジーン(ガブリエル・バーン)は、イザベルの業績を讃える回顧展が開催されることになり、未発表写真などを含めその整理と準備に追われている。長男のジョナ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、若くして大学の教授に昇格したばかりで、妻は第一子となる女の子を授かったばかり。しかし、イザベルが亡くなったとき12歳だった次男のコンラッド(デヴィン・ドルイド)は、多感な時期を迎え父親のジーンに何か突っかかる。帰宅してもジーンとは話そうともせず部屋に引きこもってゲームにふける。

ジーンは、父親になったばかりだがジョナを呼び寄せて、回顧展の準備の手伝いとコンラッドとの仲立ちを期待する。ある日、イザベルの仕事上のパートナーだった写真家のリチャード(デヴィッド・ストラザーン)が、新聞に寄稿する回顧展の記事でイザベルの交通事故死は自殺であったかもしれないことに触れるつもりだとジーンに告げた。当時、交通事故としては不審な点があることを認識していたジーンとジョナだが、まだ少年のコンラッドには伏せられていた。

ジーンは、記事になればコンラッドが母親の死に不審を抱くことを懸念して先に打ち明けようと考える。だが、ジョナはいまも母親を深く愛しているコンラッドが、さらに傷つくことに耐えらないのではないかと憂慮し、新聞に書かれても家族として隠し通すべきだとジーンに進言する。

ジョナ(右)は弟コンラッドの心を開かせようとするが… (C)MOTLYS - MEMENTO FILMS PRODUCTION ? NIMBUS FILMS - ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved
ジョナ(左)は弟コンラッドの心を開かせようとするが… (C)MOTLYS – MEMENTO FILMS PRODUCTION ? NIMBUS FILMS – ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved

ジーンとジョナに結論が出ないまま回顧展の開催日が迫ってくる。仕事で不在がちだったイザベル。他界した今、夫と息子たちはそれぞれに妻として母親としてフォトジャーナリストとしてのイザベルの真の姿を、存在しているかのように追い求めていく。それはイザベルの残像に翻弄されながら、自分の心の奥底にあるものに気づかされていく疼きでもある。その緊迫した空気の中で、コンラッドが学校で大きな事件を起こしてしまう…。

【みどころ・エピソード】
イザベルの知られざる一面や秘密が浮き彫りりにされていく過程で、自らの心の奥底に隠されていたもの、隠しておきたいものに対峙することになる不安。ジーンにも、ジョナにも、それぞれに心のうちの抱えている問題がある。ほとんど表情の読めないイザベルの存在感。戦闘地域へ取材に行き戦争の真実を記録し伝えたいという妻の意志と使命感を尊重し、高校教師となって家庭と息子とたちを守ろうとするジーン。キャリヤが評価され教授に昇格し、第一子を授かってもどこか妻との間に距離を感じさせるジョナ。母親を喪失した悲しみから脱却しようともがくコンラッド。複雑に揺れ動く心の葛藤を、4人の家族が演じきっている空気感についつい引き込まれていく。

一人の女性の死を取り巻く心理サスペンスだが、過度な重苦しさや暗さはない。父親と息子たちが、それぞれに踏み出した先にあるもの。それは、家族愛という絆の再生への光なのか、自分の心に内に隠されていた危うさへの誘いなのか。ラストシーンをどのように受け止めるのかは、本作を観る人それぞれなのだが、原題の“Louder Than Bombs”の表現とイザベラの無表情さを観るとき、私は予測のつかない心の揺らぎの大きさを想起してしまう。 【遠山清一】

監督:ヨアキム・トリアー 2015年/ノルウェー=フランス=デンマーク=アメリカ/英語/109分/原題:Louder Than Bombs 配給:ミッドシップ 2016年11月26日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.hahanozanzou.com
Facebook https://www.facebook.com/hahanozanzou/

*AWARD*
第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。第43回ノルウェー国際映画祭ノルウェー映画批評家賞受賞。第26回ストックホルム国際映画祭最優秀映画賞受賞。第3回Film Club’s The Lost Weekend 2016 最優秀アンサンブルキャスト賞受賞。第12回コスモラマ・トロンハイム映画祭カノン賞監督賞・オリジナル脚本賞・撮影賞受賞。2016年アマンダ賞監督賞・撮影賞・編集賞受賞作品。